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Jリーグ 7年前

湘南、曹監督という羅針盤。試行錯誤経て到達したJ2優勝、新しい「湘南スタイル」

text by 藤江直人 photo by Getty Images

苦しんでいる過程でたどり着いた逆転の発想

 1月中旬の新チーム始動からスペインでのキャンプ、そして帰国してから2月下旬のシーズン開幕へ向けて日々の練習に臨む過程で、何度も試行錯誤を繰り返しては思い悩んだという。

「皆さんが期待する、あるいは求めるものをゼロから、戦術的にもメンタル的にもいままでと同じようにアプローチしてもおそらく上手くいかない。だかといって『今年はポゼッションをやろう』と、ちょっと聞こえのいい言葉で彼らを促しても動かないだろうな、とも思っていたので」

 その一方で、コーチから監督に就任した2012シーズンから貫いてきた信念はぶれなかった。世界のなかで誰よりもベルマーレというクラブの未来を考えている、という思いのもとで、そのシーズンに所属したすべての選手が成長したという実感をもって、1年間を終えてほしいという指導方針だ。

「このクラブを何とかしたいという気持ちは、おそらく人より強いと思う。何とかするというのは目の前の結果だけでなく、成長できそうな選手をどんどん世の中に送り込むようなサイクルを続けないと、ウチのようなチームが文化や色を出して、Jリーグの中で異彩を放てないとずっと思ってきたので」

 開幕から5試合を4勝1分けと好スタートを切っても、心のなかに巣食った不安や迷いの類は消え去らなかった。チームを船にたとえながら、曹監督は当時の心境をこう表現してもいる。

「海を漕いでいても『どっちに行くのか』とか『このまま沈んでしまうのでは』という感じで。浮きあがったとしても顔を海面から出せないというか、それでも何となく『あのへんに光がある』と思いながら半歩ずつ進んで来られたような、本当にそういう1年間だったのかなと」

 もがき、苦しんでいる過程で逆転の発想にたどり着いた。目の前に待つ一戦の結果を追い求めると同時に、長期的な視野に立ってチームを作っていく作業が指揮官には求められる。それでもいま現在の自分には、後者の仕事はできないと言い聞かせたと曹監督は言う。

「このチームの5年後、10年後を考えて選手を起用するとか、獲得するとか、やり方を決める力は僕にはないと。それこそ目の前の1日や今年1年で、いまいる選手たちに充実感を与えなきゃいけないと。ある意味で開き直ることは非常に力がいることだと自分でも気がつきましたし、そうしないと人間が発する言葉というものが本物にはなっていかない」

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