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Jリーグ 6年前

湘南、曹監督という羅針盤。試行錯誤経て到達したJ2優勝、新しい「湘南スタイル」

text by 藤江直人 photo by Getty Images

セルビア人FWムルジャを驚かせたチームの雰囲気

夏の移籍市場で湘南に加入したドラガン・ムルジャ
夏の移籍市場で湘南に加入したドラガン・ムルジャ【写真:Getty Images】

 表彰式に続いて、ゴール裏のスタンド前で行われた異例のビールかけを終えて戻ったロッカールーム。ベンチに入れなかった選手たちも含めて、全員でベルマーレのチャントを歌い終えた直後に、夏の移籍市場で加入したFWドラガン・ムルジャ(アルディージャ)がこんな声をかけてきた。

「長いプロ生活のなかで、試合に出ている選手と出ていない選手が、同じ空気で練習しているチームは初めてです」

 33歳の元セルビア代表を驚かせた雰囲気こそが、ベルマーレの力の源泉であり、状況によっては心を鬼にしながら選手たちを厳しく叱責してきた曹監督が目指してきた理想の環境でもある。6年間を数える監督生活で最も腐心し、頭をフル回転させ、力を使い果たしてきた。

「来年のことは全然考えていないというか、フルパワーを使ってきたので、いつ始動して、キャンプはどこに行って、どこと開幕戦を戦って、というのを考えることは正直、できないですね」

 来年へ向けたエネルギーが空っぽになっていると苦笑いしたが、それでも信念は変わらない。

「僕は僕でしかないから、どんな状況であっても前向きに生きていこうと思っているし、前向きに生きたいと思っているし、今年所属した選手が次のステージで活躍してほしいと強く思っている。それだけは変わらないということが僕のなかでは真実であり、すべてだと思います」

 成長の証を見せる場となるリーグ戦はまだ終わらない。「残りは3試合しかない」を合言葉としながら、J1へ定着するための来シーズンをにらんだベルマーレは、厳しくも熱く、そして優しさにあふれる曹監督の大きな背中を羅針盤として前進を続けていく。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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