世界最大のメジャースポーツを知った
賀川の分析は、実に的確だった。
「開催国として1つも勝てないようでは困る、というムードでした。私は、『ステートアマ(国家が立場を保証する)の選手が揃い、完全にフル代表が参加する東欧諸国が相手だと厳しいが、西欧や南米が相手なら可能性はある』と、予想記事を書きました」
アルゼンチンに勝って、ガーナとは分けて準々決勝進出。それが賀川の予想だった。しかし多くのメディアは違った。
「五輪が近づくと、各新聞社が一斉に海外のスポーツ事情を取材に出かけました。それで欧州も南米もサッカー一色だということが判ったんです。なかでもアルゼンチンと言えば、もうサッカー王国じゃないか、ということになったわけです」
つまり東京五輪開催を契機に、野球を国技とする日本のメディアも、初めて世界最大のメジャースポーツが何なのかを知った。ただし国内では、サッカーの面白さを知る人がほとんどいなかった。鈴木良三夫人は、せっかく地元で開催される五輪だからとチケットを買いに出かけるが、余っていたのがサッカーだけだったそうである。
片山も「当時サッカーで一番お客さんが入ったのは 早慶戦だったかもしれない。納涼も兼ねて1~2万人は入ったから」と苦笑する。それでも祭り好きの日本だけに、最終的には全競技のチケットがほとんど完売した。
(文:加部究)
▽ 加部 究
スポーツライター。1958年、前橋市にうまれる。立教大学法学部卒業。高校1年のとき“空飛ぶオランダ人”の異名をとるヨハン・クライフの映像に遭遇。衝撃が尾を引き、本場への観戦旅を繰り返すようになる。1986年、メキシコ・ワールドカップを取材するためスポーツニッポン新聞社を在籍3年目に依願退職。以来、ワールドカップ7度、10度以上の欧州カップ・ファイナル及び4つの大陸選手権等の取材をこなしながら『サッカーダイジェスト』、『エル・ゴラッソ』、『サッカー批評』、『フットボール批評』など数多くの媒体とかかわる。代表作に、『祝祭―Road to France』、『真空飛び膝蹴りの真実“キックの鬼”沢村忠伝説』、『サッカー移民』『大和魂のモダンサッカー』、『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』、『サッカー通訳戦記』ほか。
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