フットボールチャンネル

あなたは理解できる? 風間八宏監督の完成図を描かないチーム作りとは。その言葉を解きほぐす

風間八宏監督が率いるチームのプレーそのものについては、かなり理解されるようになってきた。ただ、風間監督が何を考え、どういうつもりでチーム作りを行っているかについて、多くのファンは腑に落ちないところが多々あるに違いない。名古屋グランパスの風間八宏監督にチーム作りについて聞いた2/6発売の「フットボール批評issue23」から一部を先行して公開する。(取材・文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Getty Images

肝は「大きなパイに合わせる」

190122_kazama_getty
風間八宏監督【写真:Getty Images】

「チーム作りで考えるのは、まず色を何色持てるか。そして、それぞれの色がどれぐらい濃いかです」

 のっけから風間さんの言葉はわかりにくい。「色」とは何か、「濃さ」とは何か。もう少し聞いてみよう。

「例えば、10メートルを守れる選手が1人、30メートルを守れる選手が9人いるとします。これでチームを作ると10メートルの選手のところが穴になりますから、そこから崩れてしまいますよね。そこでよくやるのは、10メートルの選手に合わせたチーム作りです。横幅を守るのに10メートルを基準にすると4人が必要になります」

 国際規格のフィールドの横幅は64~75メートル。1人あたり左右に10メートルの守備範囲なら、4人いれば横幅は十分カバーできる。実際にはボール方向に10メートル守ればいいので、4人で作るラインの長さは30メートル程度だが、横幅4人は実感として違和感がないと思う。4-4-2のフォーメーションを想起すればいい。ただ、これは風間さんにとって、「小さいパイ」に合わせたチーム作りだ。

「小さいパイに合わせてチームを作ると、まとまりは早いですけどチームが大きくならない。なので、1つでも大きなパイがあるなら、私はそれに合わせてチームを作ります。30メートルを守れる選手が2人いるなら、横幅を守るのに4人は必要なくて2人で足りますよね。小さいパイに合わせるのではなく、大きいパイに合わせて周囲を大きくしていく。そうでないと進化しませんから。現状で名古屋はパイが揃っているとは言えませんが、やっていけば選手は伸びていきます」

 風間さんのチーム作りの肝になるのが、この「大きなパイに合わせる」という考え方である。もうお気づきだろうが、最初の「色」と「濃さ」の「濃さ」のほうが「パイ」に言葉が変わってしまっている。

「ぬり絵」ではないチーム作り

 たぶん大きさの話を始めたのでそうなったのだが、ともあれ小さいほうに合わせないという発想がチーム作りの出発点にあるのは、他のチームとは大きな違いだと思うし、一般的なチーム作りのイメージとの最初の「ズレ」だろう。

「絵が描いてあって、それに色をつけていくのがチーム作りと思われていますが、それでは面白くない」

 チーム作りは「ぬり絵」ではない、それでは面白くないと風間さんは言う。

 チームを作る前提として選手の存在がある。選手にはそれぞれの特徴があり、それが「色」だ。ドリブルが得意、パスの組み立てができる、スピードがある…そうした特徴がプロの場合は選手の武器になる。そして特徴にも濃淡がある。

 ドリブルという同じ特徴でも、1人抜ける選手と3人抜ける選手では才能の大きさが違う。それが「濃さ」であり「パイ」の大小だ。選手の特徴と能力にバラつきがあるのは、チームを作るうえで普通の状態といえる。

 ここで、多くのチームは最低限できることを基準にチームを作る。特徴はそれぞれ発揮していいし、適材適所で能力は生かしたい。ただ、最低限のタスクは決めておく。できないことを課しても意味がないので、タスクは最小の「パイ」に合わせざるをえない。小さいほうに揃えないと揃わないからだ。その結果、予めチームのフレームが出来てしまう。チームとしての「形」だ。

 形が決まるので、その形に収まりのいい選手を配置していく作業になる。もう枠組みは決まっているので、良くも悪くもそこからはみ出てしまう選手は使いづらくなったりもする。完成図は決まっていて、そこへ向かっていく作業がチーム作りだ。しかし、風間さんはそれを「ぬり絵」だと言う。

「完成形は自分にも見えていないですよ。最初にパッケージを決めてしまうのではなく、自由設計なんです。素材の色と大きさが変われば、当然組み方は変わってくる。例えば、子供が増えたら間取りを変えられる、建て増しのできる家みたいにね」

「パイを大きくする、色の数を増やす。そうすると…」

190122_kazama2_getty
風間監督は「ぬり絵」をするつもりはない【写真:Getty Images】

 一番大きな能力はそのまま使う。チームのサイズに合わせて縮めてしまうのではなく、最大の武器はフルサイズで装備する。そして周囲に武器を生かせる「色」を配置する。小さなパイに合わせていないので、パイは揃わず、全体ではそこかしこに隙間ができる。パワーバランスが歪なのでチームとしての安定感は出ない。

 簡単に言えば、長所も短所もでかいチームになりやすい。ただ、大きいパイに全体が揃ってくると、チームとしてのサイズが予め決まっている場合よりも大きくできる。あえて枠を作らず、どこまでも大きくしていくという方針だ。

「パイが揃っていなければ穴はできます。ある意味、そこは何度も誤魔化してきた。試合途中でフォーメーションを変えるのもその1つでした。目先を変えて流れを変え、相手が対応する前の5分間で点をとってしまう。それで拾った試合がいくつかあります。

 ただ、それをやりたいわけじゃない。それを目指しているわけではなく、方便としてやっただけです。個人とチームは一緒。個とチームの利益を一致させること。『補う』ばかりではチームは前へ進めません。下へ合わせずに上についていくようにしないといけない。その過程での戦術は『パズル』にすぎない」

 風間監督は仕方なく「パズル」はやったが、「ぬり絵」をするつもりはない。

「パイを大きくする、色の数を増やす。そうすると武器が出てきます。そこから本当の戦術が生まれてくる」

(取材・文:西部謙司)

4910078870398

『フットボール批評issue23』

『フットボール批評issue23』
定価:本体1500円+税

今号のフットボール批評では、イノベーションを可能にする≪チーム作りの新常識≫を「監督」「社長」「戦術」の視点から総力特集。

もはやサッカーのライバルはサッカーではありません。負けても愛されるチームは、勝たないとファンが増えないチームよりもはるかに価値を持つようになってきたいまの時代、目先の勝利だけでなく、未来を見据えて魅力的なチームを作れるか。問われるのは設計図ではないでしょうか。

開幕直前のJリーグ、アジアで激闘を繰り広げた日本代表、海外サッカーで描かれる、「新しいサッカーの設計図」を読み解いていきます。

詳細はこちらから

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top