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Jリーグ 4年前

13年ぶりの横浜ダービー、王者マリノスが見せた底力。横浜FCとの違いになった3つの「ハイ」

明治安田生命J1リーグ第6節が22日に行われ、横浜F・マリノスが横浜FCを4-0で下した。リーグ戦では13年ぶりに実現した横浜ダービーで、昇格組の横浜FCはいかにJ1王者のマリノスに挑み、攻略しようとしたのか。野心的な戦いぶりによって映し出されたのは、両チームの今後への大きな可能性だった。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Shinya Tanaka

「引いて守っては発展がない」

遠藤渓太 中村俊輔
【写真:田中伸弥】

 王者になれば他の全てから追いかけられる立場になり、徹底的に研究される。勝負の世界では至極当たり前のことだ。

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 2019年の明治安田生命J1リーグを制した横浜F・マリノスも対戦相手の「マリノス対策」に手を焼き、足踏みが続いていた。

 そんな中で迎えたのが、J1では13年ぶりとなる横浜ダービー。22日に行われたJ1第6節の横浜FC戦だった。

 昇格組ながら格上と見られる相手にも果敢に挑む姿勢は、今季の横浜FCの魅力だ。近い将来の大きな飛躍が期待される斉藤光毅を筆頭に、有望な若手選手も多い。そして、下平隆宏監督も自らの哲学を選手たちに落とし込みながら、勝てるチームを作ろうと意欲的に取り組んでいる。

「引いて守ったりブロックを作ってやることは、昨年までもそういう形もやっていましたし、できるんですけど、それだと発展がないなと。見ている人たちも、もっとアグレッシブなところ、どちらに勝負が転がるかというのも見たいと思うので、勝ち点1とかをギリギり拾うために引きこもったサッカーより、今はチャレンジして、なるべく選手たちに成功体験を積ませて、(自分たちのサッカーが)できている時間が長くなるようにやっていこうと思っています」

 マリノス戦を終えて、下平監督はそう語っていた。

 結果はスコアだけ見れば0-4の大敗だった。現状でマリノスと渡り合う力は足りなかったが、指揮官の考え方は確実にチームに根づいていて、今後に大きな期待を抱かせたのは間違いない。

 試合会場到着時に行われる『DAZN』のインタビューで、下平監督は言った。

「マリノスは非常に強い、特徴のあるチームで、まずはハイテンポですし、ハイインテンシティですし、あとはハイラインということで、非常に特徴的。そういうところに呑まれないように、またはそういうところを突いていけるようにやっていきたいと思います」

マリノスの3つの「ハイ」

 マリノスと横浜FCには共通する哲学も垣間見られる中で、おそらく4ゴール分の力の差となって表れたのは、これら3つの「ハイ」の部分だったのではないか。「ハイテンポ」「ハイインテンシティ」「ハイライン」だ。

 下平監督は「ハイラインが特徴的なチームなので、その背後はFC東京戦や鹿島アントラーズ戦を参考に、だいぶ狙っていました」と語る。実際、最近のマリノスはディフェンスライン、特に両サイドバックの背後にできる広大なスペースを執拗に狙われ、FC東京と鹿島に連敗を喫していた。

 そこで横浜FCは、これまでに取り組んできたスタイルに「対マリノス」を意識したアレンジを加えて挑んできた。最も驚いたのは、最近では珍しくなったマンツーマンディフェンスの徹底ぶりだ。

 試合開始から3-3-2-2ともいうべき並びの横浜FCは、相手のフィールドプレーヤー全員に1人ずつマークマンをぴったりつけてきた。マリノスのサイドバックが内側に絞っても、対面のウィングバックがしつこく追いかけてくる。両センターバックには2トップが張りつき、「ハイテンポ」なビルドアップの寸断を狙った。

 序盤はその狙いが奏功し、マリノス陣内でプレーする時間も作ることができた。ビルドアップでは丁寧にパスをつなぎつつ、相手のプレスを引き出したうえで、ディフェンスラインの背後を狙ってビッグチャンスも作れていた。

 前半の飲水タイム中にライブで更新されるスタッツを見ると、ボール支配率51%の横浜FCがマリノスを上回り、パス数でもマリノスが94本だったのに対して横浜FCは113本。流れは非常に良かった。

 だが、その後から徐々にマリノスが押し返し始める。マンツーマンでマークを受けながら、人と人の間のスペースがない中でどうパスを受けるのか感覚をつかみ始め、リーグ戦初先発だった仙頭啓矢を左右に幅広く動かしてマークのズレが生まれる瞬間を狙っていった。

 横浜FCの中盤で奮闘していた手塚康平は、前半の20分過ぎから変化を感じていたという。

「最初うまくいっていたのは、自分たちが相手の嫌なスペース、サイドバックの裏を突けたいたこともありました。マンツーマンで前からプレッシャーをかけてハメにいき、相手が嫌がるようなプレーができていたのが最初の20分くらいまで。それ以降は相手も自分たちにうまく対応してきて、プレッシャーを剥がしてきたり、あとは自分たちがビルドアップのところでうまくボールを前に運べなくなって、相手に押し込まれる展開になってしまったのかなと思います」

マンツーマンディフェンスは諸刃の剣

横浜F・マリノス
【写真:田中伸弥】

 31分に田代真一のオウンゴールでマリノスに先制点を献上し、横浜FCは1点ビハインドで前半を終える。それでも後半が始まると、再び守備の強度が戻った。だが、それも長くは続かず。やはり疲労の色は濃く、徐々に戻り切れなくなったり、マークしていた選手を逃してしまったりする場面が散見されるようになっていった。

 手塚は「前半に何度か作ったチャンスをものにできなかったのもそうだし、あとは点が取れなくても、0-0の状態で我慢強く自分たちのやりたいことをやり続ければ、また結果は違ったんじゃないかと思います」と悔やんでいた。

 マンツーマンマーキングには大きなリスクがある。下平監督もそれは「いい形でボールを奪えれば自分たちにゴールが転がってくるし、入れ替わられれば相手のビッグチャンスになりますし、そういうリスクを負って、今はトライしている」と承知の上だ。

 どうしても相手の動きに合わせるので、少し遅れた状態で走らなければならない。リアクションになって受け身のまま動かされると、ボールを回しながら動くよりも消耗は激しくなる。

 横浜FCは試合開始からエンジン全開でマリノスの「ハイテンポ」についていこうとしたため消耗が早く、後半になっても「ハイテンポ」な展開で、「ハイインテンシティ」なマリノスのサッカーについていききれなくなってしまった。

「前半から果敢に前からプレッシャーをかけたり、自分たちのチャンスをなんとか作ってはいたんですけれども、フィニッシュまで至らなかったところで失点してしまいました。後半も立ち上がりは非常に良かったと思うんですけれども、そこから立て続けに失点し、前節同様、一旦気持ちが落ちてしまうとなかなか回復できないこともありました」

 集中力が散漫になっていった時間帯に、クロス対応で後手を踏む場面もあった。無理にオフサイドを取ろうとしてマギーニョが遠藤渓太についていかなかった3失点目のところもそうだ。疲れて少し楽をしたいという気持ちの緩みが出ないよう、改善していかなければならない。

 用意していたマンツーマンプレッシングがうまくいっている時間帯、序盤に1つでもゴールを奪えていれば、違った展開になっていたはず。手塚は「0-0の状態で我慢強く自分たちのやりたいことをやり続ければ、また結果は違ったんじゃないか」と唇を噛んだ。

 一方、下平監督は「FC東京も鹿島も、かなりボランチのところでボールが奪えて、そこからのカウンターを効果的にできていたんですけど、なかなかうちは中盤でボールを奪えなかった」と、横浜FCのプランがゴールに結びつかなかった原因を分析する。「ハイライン」の背後は取れてもフィニッシュの精度を欠き、逆に後半は「ハイライン」の相手に押し込まれて苦しくなった。

王者との差をいかに埋めるか

 前節は川崎フロンターレに1-5で敗れたが、その試合で横浜FCは後半に4失点を喫していた。2試合連続で後半の脆さを露呈する結果となり、手塚はJ1トップクラスのチームとの差を実感している。

「やっぱりJ1の強いチームを相手に、少しでも自分たちが気を緩めたら、その隙を突かれてしまうところを、この2試合で改めて痛感しました。前半は2試合とも自分たちが元気な時は集中していて、点も取られなかったと思います。でもやっぱり後半にだんだん疲れてきて、集中力が切れ始めた時にドドドっと崩れる傾向があるので、最後まで集中力を切らさないことがJ1のチームを相手にするのにすごく大事かなと思います」

 フロンターレは交代選手の投入で流れを変えて大量得点を奪った。マリノスは愚直に「自分たちのサッカー」を貫くことで「ハイテンポ」「ハイインテンシティ」「ハイライン」という、3つの「ハイ」が違いになることを証明した。これがチャンピオンチームの底力とも言えるのではないだろうか。

 マリノスは徹底した「アタッキング・フットボール」を掲げて、毎試合ほとんど戦い方を変えることなく、自分たちの哲学を貫き通すことでリーグ優勝を果たした。

 下平監督も、決して引くことなく攻撃的に勝つサッカーを目指す上で、「丁寧なビルドアップ」と「激しいプレッシング」を両立させようとチームのベース作りに挑んでいる。横浜FCはマリノスに比べて試合ごとの戦術的なカスタマイズもより柔軟に取り入れつつ、積極的なアクションを起こして主導権を握るサッカーを目指しているように見える。

 まだまだ上位争いをするクラブとの実力差はあるが、際立った武器を持つ若手も多く、近い将来に大化けする可能性もあるだろう。手塚も「自分たちが主導権を握っている時間帯は、間違いなくどの試合にも必ずあるので、その時間を1試合1試合長くしていけば、勝ちが近づくのではないかと思います」と成長の手応えを感じているところだ。

 マリノスは久しぶりの勝利で、自分たちの信じてきた哲学が変わらず勝利に直結するものだと再確認できただろう。対策されても、試合中にそれを上回るだけの「ハイ」な展開に持っていける、と。横浜ダービーでは厳しくプレッシャーをかけられた苦しい時間帯を耐えた末に、ゴールを重ねて試合を終えてみれば、チーム走行距離は119.9kmで横浜FCの116.8kmを上回っていた。ボール支配率は53%と普段よりも控えめだったが、それよりも走り勝ったことが大きい。

 試合が終わった時、スコアボードには4点差がついていた。だが、13年ぶりの横浜ダービーは両チームに大きなポテンシャルを感じる、互いの持ち味がよく発揮された好ゲームだった。後半戦の再戦時にマリノスと横浜FCがどんな変化や成長を遂げているか楽しみだ。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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