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Jリーグ 4年前

「Jリーグで1番」川崎フロンターレのベンチパワー。勝利を引き寄せる「交代枠5」の使い方【週刊J批評】

今季の明治安田生命J1リーグは交代枠が3名から5名に拡大されている。川崎フロンターレはこの一時的な規則改正を活用し、7連勝と好調を維持している。シーズンは夏場の過密日程に差し掛かったが、交代枠の活用が今季のJリーグのタイトルレースに影響を与えるだろう。(文:河治良幸)

シリーズ:週刊J批評 text by 河治良幸 photo by Getty Images

「交代枠5」の使い方

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【写真:Getty Images】

 明治安田生命J1リーグは第8節を終了。川崎フロンターレが無敗の勝ち点22で首位を走り、セレッソ大阪が勝ち点17で追走している。再開後の過密日程で色々な影響が出ているが、5人交代制は勝敗に大きく関わる要素になっている。

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 選手交代には戦略的に大きく2つの意図がある。1つは体力が消耗した選手をよりフレッシュな選手に交代させてチームの強度を維持、活性化する。もう1つは戦術的な変化や攻守の形、バランスを変えることで点を取りに行く、逆に守り切るための交代だ。

 5枚の交代枠を3回(ハーフタイムの交代は回数に含まれない)でどう活用するか最初は監督たちも手探り感は否めなかったが、次第に慣れてきていることが見て取れる。

 FC東京の長谷川健太監督も「終盤に点数が動くことが今までより多くなる。今まででは代えられなかった中盤の選手を代えて強度が戻ったり、終盤もっとオープンになるかと思ったらフレッシュな選手を使って意外と最後まで走れたり。終盤に襲い掛かるような試合展開も増えると思う」とここまでの感触を語る。

 ただ、そのFC東京も田川亨介や東慶悟の怪我、橋本拳人のロシアリーグ(ロストフ)移籍など台所事情が厳しくなる中で、試合をクローズするためにフレッシュな選手を投入するということ以上に、体力的に厳しい選手を交代せざるをえない状況も見られる。その他のクラブも多かれ少なかれ、そうした傾向が強まっており、5人交代制でなんとか苦しい状況をしのいでいる部分もありそうだ。

選手交代で勝利を引き寄せる川崎フロンターレ

 そうした中で7連勝中の川崎フロンターレは選手交代も自分たちの大きなアドバンテージにしている。ボールを動かしながら自分たちのペースに引き込み、相手を消耗させて後半に仕留めるスタイルがもともとあるチームだが、試合を決定づけられる選手がベンチに揃っていることが、その強みをさらに引き出している。

 得点数の内訳を見ると前半が9得点、後半が13得点となっている。FC東京との”多摩川クラシコ”ではスタートから完全に主導権を握り、前半だけで4得点を奪う流れだったが、その試合を除けばさらに前半と後半の差が顕著に出るかもしれない。その一方で失点数は前半も後半も3のまま変わらない。つまり、単に後半がオープンな展開で点の取り合いになるのではなく、川崎が守備の強度を維持したまま攻撃のパワーを上げて、ゴールを量産していることになる。

 実際に22得点のうち、交代選手が記録したゴールは6つあり、第5節の横浜FC戦以降に集中している。横浜FC戦では後半に一度追いつかれながら、小林悠、三笘薫の”二枚替え”を皮切りに4点を奪って5-1で大勝した。これまでの試合で最も苦しんだ第6節のベガルタ仙台戦では前半2点をリードされたところから前半終わりに長谷川竜也のアクシデントにより三笘を入れたあと、ハーフタイムにFWの旗手怜央、小林悠をダブル投入する実質”三枚替え”のような形で一気に巻き返し、小林の2得点など3点を奪って2-3と逆転した。

 第7節の湘南戦は前半を優勢に運びながら後半の立ち上がりに湘南が巻き返した。タリクのゴールで先制を許すと、川崎の鬼木達監督は”二枚替え”で中盤に大島僚太、3トップの左に三笘を投入して山根視来の同点弾に結びつけた。さらにFWの宮代大聖、レアンドロ・ダミアンを入れて三笘のゴールで逆転。後半40分に投入された田中碧は3分後に勝利を決定づける3点目を決めた。湘南の浮嶋敏監督も「あと10分遅く先制点が入っていたら」と苦笑いしながら、戦前から「Jリーグで1番」と評価していた川崎の途中投入される選手の圧力を実感していた。

”ベンチパワー”と呼ぶべきか。1位と2位の直接対決となったG大阪戦の前半はG大阪にペースを握られたが、ハーフタイムに中盤の脇坂泰斗をサイドアタッカーの三笘に代えて攻撃の鋭さを加え、その三笘の仕掛けから大島の見事なミドルシュートでGK東口順昭の牙城を破った。これまでとは違い攻撃より守備の強度を高める交代カードを切り、そのまま逃げ切ることに成功している。

夏場の過密日程で優位に立つには…

 この試合で川崎と互角に近い戦いを演じながら敗れたガンバ大阪も、ここまで決して順調に試合を運んだわけではない中で、第3節は名古屋グランパスに2-1とリードされた流れで宮本恒靖監督が”三枚替え”を敢行し、後半アディショナルタイムに途中出場のパトリックと渡邉千真のコンビで劇的な同点ゴールを決めると、続く清水エスパルス戦でも二人を同時に投入した試合終盤に渡邉千真が勝ち越しゴールを決めて2-1で勝利している。

 このように紅白戦で一緒に組むことが多いユニットを同時に投入するといったことも過密日程のレギュレーションでは有効だ。しかし、多くのクラブは誰かしら怪我人を抱え、主力の疲労も蓄積してくる中、戦術面より疲労を考えた選手交代の割合が増えてきているように思える。ここまでは試合を挽回するための”三枚替え”や”二枚替え”も目立ったが、これからさらに暑くなってくれば、ハーフタイムも含めた4回のタイミングで5枚の交代枠はなるべくプレーの強度を維持するために使われる場面が増えると見ている。

 それでも主力に怪我人が少ないなど、コンディションが比較的、良好なクラブはより戦術的なカードが切りやすく、今後の戦いを優位に運んでいきやすいはず。その意味では大槻毅監督が「選手が戻ってきてポジティブなことが多い」と語る浦和レッズ、仲川輝人など怪我人を抱えながら前田大然を獲得し、J3の相模原で成長を示した生え抜きの松田詠太郎をレンタルバックした横浜F・マリノス、チーム作りの途上ながら毎試合スタメンを代えて強度を維持している鹿島アントラーズなどは夏場の戦いに注目したいクラブだ。

(文:河治良幸)

【了】

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