前田大然は「無意識で動ける」。横浜F・マリノスで光る突き抜けた武器。恩師に叩き込まれた厳しさとは…【コラム】

2021年05月10日(Mon)10時19分配信

シリーズ:コラム
text by 元川悦子 photo Getty Images
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明治安田生命J1リーグ第13節、横浜F・マリノス対ヴィッセル神戸が9日に行われ、2-0で横浜FMが勝利した。好調なチーム同士の対戦となったこの試合で、前田大然の走力が横浜FMに試合の流れを引き寄せた。前線から絶えずボールを追い続けることで横浜FMの強度の高い守備を成立させるプレーの原点には、かつての恩師の教えと欧州での経験がある。(取材・文:元川悦子)

横浜FMに流れを手繰り寄せた韋駄天

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【写真:Getty Images】

 J1で10戦無敗の横浜F・マリノスと同8戦無敗のヴィッセル神戸という絶好調同士の顔合わせとなった9日の一戦。昨年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で負ったケガから復帰したアンドレス・イニエスタはベンチスタートとなったものの、今季9得点の古橋亨梧、8得点のオナイウ阿道、前田大然といった役者の揃ったゲームとあって、大いに注目された。

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 序盤は神戸ペース。縦パスに反応した古橋が裏に抜け出し、積極果敢にシュートを打ちに行く場面も見られた。「入りは非常によかったと思いますし、主導権を握れた」と三浦淳寛監督も話すように、チーム全体としてアグレッシブさを前面に押し出した。

 これを受ける形になった横浜FM。背番号10をつけるマルコス・ジュニオールが早々に負傷し、開始20分で天野純と交代を強いられるアクシデントが起きる。ここまでシュートゼロと得点の匂いが感じられなかったため、その後の展開が懸念された。

 膠着状態の打開に貢献した1人が、背番号38をつける韋駄天・前田大然だった。前半22分には天野が右の張った位置から出した浮き球のパスに鋭く反応。ゴール前で右足ボレーを試みる。これがチーム最初のシュートとなった。

 この一撃をきっかけに流れを引き寄せ始め、迎えた30分。前田大然はセルジ・サンペールがトーマス・フェルマーレンに戻したところを激しく寄せる。オナイウがそれに呼応し、菊池流帆の横パスをカットする。次の瞬間、前田大然はこぼれたボールを拾って一目散にゴール前へ運び、GK前川黛也もかわしてシュート態勢に入った。惜しくも菊池に反応されて得点には至らなかったが、最大の強みである「献身的な守備」が色濃く押し出されたのは間違いない。

前田大然の驚異的な走力

 思い起こせば、今季J1開幕節の川崎フロンターレ戦も、前田大然のハイプレスで試合の流れがガラリと変わっている。横浜FMは前半から家長昭博に2点を奪われ、劣勢を強いられた。しかし、後半から入った背番号38が高い位置でボールを奪い、カウンターの起点になり続けることで、内容的にも巻き返した。

 結果的に敗戦を喫したが、「守備で前から行くのが自分の持ち味。スイッチを入れていければいい」と本人も自信をのぞかせた。この働きからアンジェ・ポステコグルー監督の信頼を深め、J1キャリアハイのゴールラッシュにつながった。彼自身も自分のやるべきことを再認識したに違いない。

 凄まじいアップダウンを繰り返しながら敵に向かい、ボールを奪ってくれる。最前線に献身的なスピードスターがいるのは、後ろに陣取る面々にとっても心強い点だ。

「自分たちのハイプレスに関しては、行くか行かないかは前がしっかり判断して僕ら後ろがついていく感じで話し合っている。そこがうまくできている」と畠中槙之輔も言う。前から後ろまで意思統一した強度の高い守備ができていることが、好調を維持する要因の1つと言っていい。

 実際、2-0で撃破した神戸戦も、横浜FMは最後までバランスを崩さなかった。緊急出場の天野が目覚ましい働きを見せたのも大きかったが、73分間でスプリント回数44回という驚異的走力を示す前田の存在も特筆すべきではないだろうか。

恩師の教えと欧州で磨きをかけた武器

 彼がそこまで守備意識を高めた背景には、松本山雅時代の反町康治監督(現日本サッカー協会技術委員長)の教えがある。

「ソリさん(反町)から強く求められたのは前からのプレスですね。守備をサボっていたら試合には出られない。その厳しさが叩き込まれているから、無意識で動けるようになりました。あの守備が完全にできるのはホントに大きいと思います」と彼は2019年夏から1シーズン過ごしたポルトガル1部・マリティモ時代に語っていたが、海外挑戦でその長所がより際立った。

 外国人FWはゴールやアシストという目に見える結果を追い求める分、守りに関しては手を抜いたり、走らなかったりするのが常。前田ほど献身性とハードワークをするFWは皆無に近いのだ。ゆえに、彼は移籍直後から試合に使われた。普通のアタッカーが嫌がる仕事をこれだけ精力的にこなし、フォア・ザ・チーム精神に徹してくれるのだから、どんな指揮官にも信頼されるのは当然だろう。

「そこだけはソリさんに感謝です」と前田も笑っていた。速さに並ぶ突き抜けた武器を手に入れたことで、彼はどのチームにとっても欠かせない駒になった。そう言っても過言ではないはずだ。

 新型コロナウイルス感染拡大がなければ、今も欧州にとどまってプレーしていた可能性が高い。それでも、家族の安全を第一に考えて日本に戻った。2019年J1王者の横浜FMの一員になった以上、欧州で磨きをかけた部分を忘れるわけにはいかない。

 今季はゴールラッシュばかりに目が行きがちだが、オフ・ザ・ボールのところでも100%以上の仕事をしているからこそ、前田大然は光る。ゴールやアシストという数字も残せて、無尽蔵な運動量でハイプレスに行けるFWというのはまさに無敵だ。この調子で高い領域まで到達し、東京五輪代表はもちろんのこと、日本代表のエースに名乗りを上げてほしいものである。

(取材・文:元川悦子)

●速すぎる! ヴィッセル神戸を翻弄する前田大然のプレーがこれだ!

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【了】

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