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Jリーグ 3年前

天野純はなぜ絶好調? 途中出場でも圧倒的な存在感、変わりつつあるサッカーとの向き合い方【コラム】

明治安田生命J1リーグ第13節が9日に行われ、横浜F・マリノスはヴィッセル神戸に2-0で勝利した。一昨季王者のマリノスは公式戦16試合負けなしと絶好調。ゴールを量産するFW陣が注目されがちな中、神戸戦で圧巻のパフォーマンスを披露したのはMF天野純だった。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

絶好調マリノス、公式戦16試合負けなし

天野純
【写真:Getty Images】

 横浜F・マリノスが快進撃を続けている。今季は明治安田生命J1リーグ開幕戦で川崎フロンターレに敗れたのみで、以降は公式戦16試合負けなしだ。

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 9日に行われたJ1第13節のヴィッセル神戸戦にも2-0で勝利し、リーグ戦4連勝を飾った。ここまでの好調をけん引してきた存在として、ともに8得点を挙げてJ1得点ランキング上位に食い込んでいるFWオナイウ阿道やFW前田大然の名前が挙げられる。

 だが、ここまでの16試合負けなしは彼らの力だけで成し遂げられたわけではない。他のチームメイトたちの奮闘もあってこそ、好調を維持することができている。

 その証拠とも言えるデータは、時間帯別の得点数にも表れている。マリノスはリーグ戦12試合で挙げた25得点のうち、13得点を61分以降に記録している。J1で2番目の得点力は終盤に投入される交代選手たちの活躍にも支えられているのだ。

 とりわけまばゆい輝きを放っているのは、MF天野純だ。7月に30歳を迎えるアカデミー出身のレフティーはリーグ戦9試合に出場しているが、そのうち先発起用されたのは3試合のみ。しかし、ベンチスタートであることを不思議がられるほどピッチ上で大きなインパクトを残している。

「もう気づいたら30歳の年になってしまったので、30歳というのは歳を取ってしまったというか、ベテランの領域に入ってくるので、まだまだ自分自身成長できるというところを見せたいですし、日々どれだけ成長できるかに毎日取り組んでいます」

 新シーズンが始動した当初の取材から、2021年にかける思いの強さを感じ取ることができた。ベルギー2部のロケレンが破産してしまい、マリノスへ復帰することになった2020年はリーグ戦22試合に出場したものの、チームをJ1連覇に導くことができず「何よりも結果を残せなくて悔いが残るシーズン」となってしまった。

 とはいえチーム内での立場は相変わらず厳しかった。最も得意とするトップ下にはMFマルコス・ジュニオールという絶対的な存在がおり、今季からはかつて天野も背負った10番を任されている。

 天野自身もプレシーズンキャンプでは、新システムの3バック導入を試みるなかで得意ではない中盤アンカーに配置されてもいた。それでも腐らず真摯にサッカーと向き合ったことが、最近のパフォーマンスにつながっているのだろう。

途中出場で決定的なプレーを連発

 途中出場したJ1第7節の湘南ベルマーレ戦では62分からピッチに立つと、直後の65分に絶妙なロングパスでFWエウベルの先制点をお膳立て。3-1で逆転勝利したJ1第10節の北海道コンサドーレ札幌戦も同様に途中出場だったが、1点リードされていた80分に反撃の口火を切るオナイウのゴールをアシストした。

 右サイドでボールを受けて対面したディフェンスを華麗に抜き去り、左足のアウトサイドキックでオナイウの足元に完璧なラストパスを届けたプレーは、天野の魅力がふんだんに詰まっていた。

 ただ、途中出場でいくら結果を残そうと、天野は満足していなかった。

「正直、そこまで満足はしていなくて。湘南戦も札幌戦も、途中から入ってああいった決定的な仕事はできますけど、直近2試合はスタメンで、90分を通してああいった効果的なプレーを全くできていないのが自分の中ではあって。後半、札幌があれだけ疲れた中で自分は入ったので、あのくらいやって当然だと思うし、自分がスタメンで出た時に何ができるかが今は一番重要かなと思っています」

 湘南戦の後、マルコス・ジュニオールの負傷離脱もあって続くJ1第8節のセレッソ大阪戦と第9節のベガルタ仙台戦に、天野は先発起用された。だが、前者では67分に、後者では63分に交代でベンチに下げられてしまった。チームの潤滑油的な役割では好プレーを披露していたものの、結果に直結するプレーを見せられなかったことで不完全燃焼感が強く残っていた。

「自分自身はチームの1つの駒としての自分しか見せられていなくて、プラスアルファの部分を見せられていない印象が強い。そういった面では、こないだ(札幌戦)でああいうアシストをしましたけど、全然満足していないです」

 札幌戦の後はJ1第11節の横浜FC戦、第12節のFC東京戦と続けてベンチスタートに。YBCルヴァンカップでは先発起用されていたが、やはりリーグ戦でチームを勝たせるプレーを天野は愚直に追い求めていた。

自分に矢印を向け続けて

天野純
【写真:Getty Images】

 9日の神戸戦もベンチスタートではあった。ところが序盤にマルコス・ジュニオールにアクシデントが起こり、20分から天野がピッチに送り出されることに。すると背番号14は効果的なポジショニングと大胆なゲームメイクで試合の流れを好転させ、次々にチャンスを演出。それまで全くシュートを放てていなかったマリノスに勢いが生まれた。

 そして40分、マリノスは相手DFのオウンゴールで先制に成功する。起点となったのは天野が繰り出した高精度のサイドチェンジだった。右サイドでパスを受けると、即座に反転して左足を振る。虹をかけるような美しいロングパスの軌道の先には、左サイドバックのDFティーラトンが走り込んでいた。

 終盤の80分には自らゴールも奪った。エウベルが左サイドから切り込んでシュートを放つと、GKが弾いたこぼれ球に詰めてゴールネットを揺らす。天野の貴重な追加点が、マリノスの勝利を大きく引き寄せた。

「エウベルがシュートを打って、こぼれ球のところで、いち早く誰よりも反応しようという意識は非常にあって、あそこにいたというのも1つのポイントだと思います。ゴールカバーが1人入ってきたので、普通に詰めてもこれは弾かれるなと思ったので、なるべくゴールの隅に蹴り込むような形で蹴ったら入った感じですね。非常に今は『見えている』し、落ち着いてできているので、いい感じできています」

 出場機会が限定的であろうと、徹底的に矢印を自分に向けて武器を磨いてきたことで心身ともに高いレベルで安定し、並の選手では見えないような一瞬が「見えている」。今の天野は、ある種の「ゾーン」に入り続けている状態なのかもしれない。

「最近はリーグ戦にスタメンで出ていないですけど、ルヴァンも含めて、ピッチに出た時に自分の質をしっかり監督だったりコーチングスタッフ、そしてサポーターの皆さんに見せつけて、『やっぱり天野純がいいんじゃないか』という思いにさせるというか、そういったことの繰り返しを今は自分の中でできている実感があります」

 自分自身でも好調を実感している天野は「自分の中では出た時に自分のクオリティを証明する作業だけに今はフォーカスしてできている」と充実感を口にする。そして「もう1つ言えるのは、サッカーをまず楽しもうというところで、自分が楽しんでいたら、自ずといいプレーになって、サポーターの方々もワクワクできるようなプレーができていると思う。そういった心構えが変わったことが、今の好調につながっているのかなと思っています」と続けた。

「もっともっと圧倒的な存在になりたい」

 天野は以前、こんなことも言っていた。

「確かにベルギーへ行く前は途中から出てどうこうできるタイプではないなと自分の中で感じた部分はあって、帰ってきてから、先発できない機会が増えてしまったというのも原因の1つではあると思うんですけど、より体の力が抜けているというか、リラックスしてプレーできている印象が自分の中であります」

 プレーに臨むにあたってのマインドは確実に変わっている。ベルギーから帰国した当初は「結果」への強いこだわりを口にし、多少強引でも自らシュートを狙う場面も以前に比べて格段に増えていた。実際、その姿勢によってゴールやアシストにつながった場面はあったが、チーム内での立場は大きく変わらなかった。

 ならば…「自分がサッカーを楽しむ」ことで得意なプレーを全開に表現することの方が、結果的にチームのためにも自分のためにもなる。やりたいことを思いきり表現できた方が、後悔も残りづらいだろう。経験を積み重ねて思考や判断がシンプルになり、洗練されてきた。

「マリノスは各ポジションに2人以上いい選手がいますし、そういった中で争いがあるのは当然.
自分は5分でも10分でも、今季は『出た時に何を見せられるか』にはフォーカスしています。60分出ていても何もできなかったら意味がないし、それだったら20分の中で違いを見せられた方がいいかもしれない。そういった部分ではしっかり整理ができていると思います」

 どこか吹っ切れた雰囲気もある。30歳という節目を目の前にして、天野はまた別の次元の選手へと進化しようとしている。神戸戦の今季リーグ戦初ゴールは、1つの大きな転換点となるかもしれない。

「結果は残せましたけど、今日(神戸戦に)出たのは70分くらいかな。その中でもっともっとできたと思うし、ファン・サポーターにもっともっと見ていて面白いと思われる選手に僕はなりたいと思っているので、そのためにはもっとやることがたくさんあるし、もっともっと圧倒的な存在になっていきたいと思っています」

 天野がベルギー時代に話していた選手としての目標は「ピッチ上の22人の中で一番上手い選手であり続けたい」ということだった。神戸戦に関して言えば、まさしくその言葉通り、アンドレス・イニエスタよりも天野と言えたのではなかろうか。

 余計なことを考えず成長に没頭し、サッカーを楽しみながら、一番上手い選手を目指す。天野の理想の姿を追いかける過程に、おそらく終わりはない。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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