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サッカー日本代表は真のプロ集団。前日合流組11人のうち5人が先発、森保監督を決断させた選手たちの「いい顔」【W杯アジア最終予選】

text by 編集部 photo by JFA

吉田麻也
【写真提供:JFA】



【日本 1-0 ベトナム カタールW杯アジア最終予選】

 カタールワールドカップのアジア最終予選が11日に行われ、日本代表はベトナム代表に1-0で勝利を収めた。

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 日本の先発メンバー11人のうち5人は、前日練習からチームに合流した選手だった。欧州組11選手を乗せたチャーター機が途中給油地のロシアで約10時間にわたり足止めをくらい、ベトナム到着が大幅に遅れた。

 もともとはベトナム戦の2日前に全員が揃って練習できるはずが、負傷を抱えるDF酒井宏樹を除く27人での全体練習ができたのは試合前日のみだった。しかも、前日の公式練習は1時間と決められており、極めて限られた準備時間しかなかったのである。

 前日練習からチームに加わってベトナム戦に先発出場したMF守田英正は「万全ではなかったと思います。そこは事実としてハッキリ言っておきたい部分かなと思います」と語った。

 しかし「そのなかでも勝つことができたのはプラス材料ですし、海外でやっていて移動が多いのはあらかじめわかっていること。アクシデントなんて当たり前に起こる世界ですし、プロである以上、そういうのは(言い訳する)理由にならないので、そこは前向きに捉えていいかなと思います」とも述べる。チーム合流が遅れようとも、試合に出るために最善の準備を尽くして必要十分なコンディションを整えた。

 合流が遅れた選手の先発起用を決断した森保一監督は、「大幅にプランは狂いましたが、選手たちがアクシデントや想定外は起こり得ること、想定外も想定内だと捉えてくれて、機内に閉じ込められている時間でイライラしたり焦ったりすることなく、落ち着いてリカバリーに努めてくれた」と選手たちのプロ意識の高さを称えた。

「お互いコミュニケーションをとってくれて、次の試合に向けて、個々のメンタル面やフィジカルの回復に努めてくれ、コミュニケーションで画を合わせてくれたのがよかったことだと思いますし、起こったことはマイナスですけど、非常にポジティブに捉えて、この試合に向かってくれたのがよかったと思います」

 DF吉田麻也やDF冨安健洋、守田、MF南野拓実、そしてMF伊東純也といった直前合流の選手たちを先発起用するにあたっての決め手は、彼らの「いい顔」にあったと森保監督は言う。

「遅れて合流してきた11人の顔を見た時に、すごくみんないい顔をしていて、疲れた様子があまり見受けられなかった。それはなぜかと言いますと、足止めをくらった給油地で、長時間機内に閉じ込められた状態でしたが、そこでうまく気持ちを切り替えて、今できることは何なのかということで睡眠、休養をしっかりとってくれた。

そして、時間があった中、選手たちは試合に向けてすでにいいコミュニケーションをとってくれていた。アクシデントの中で自分たちが試合に向けて何ができるのかということで、移動のアクシデントの中でもメンタル的にもフィジカル的にもリカバリーをしてくれて、私が会った時の顔色や雰囲気を見た時に、試合に向けてトレーニングを1日やることで十分プレーできる状態になるなと思いました。まずはベトナムに着いた時は選手たちの顔色に疲労感がなかったのがすごく大きな決め手でした」

 いくら疲れていようと顔には出さない。そして、高いプロ意識を持って、与えられた環境の中で最善を尽くす。森保監督が日頃から求めていることを選手たちは極めて高いレベルで遂行し、チームに合流するまでの段階で最大限の準備をしていた。

 ベトナム戦前日に取材に応じた吉田は「外部からの影響だったり、環境の変化だったりは遮断して、自分たちのやるべきことに集中して、まずはこのベトナム戦に勝利することが一番のテーマですし、こういうアクシデントの経験も全ては明日勝ってこそ、いい経験になったと思えるし、数年後に笑って話せるようになると思う。とにもかくにも明日勝たないと始まらないなと思っています」と話していた。

 そのうえで「コンディションの部分で特に不安はないですし、それ以上に精神的な準備が求めれるんじゃないか」と、アクシデントを言い訳にせず目の前の試合に集中することの重要性を話していた。もちろん表に出る言葉と、実際の体の感覚が違ったのは想像に難くない。

 ベトナム戦を終えた吉田は、改めて「やっぱり準備の部分でいつもよりハードだったなと思いますね」と振り返る。

「でも乗り越えなきゃいけない課題だったし、起きたことをどうこう言ってもしょうがないと思うし、大切なのは限られた時間の中でどう準備をするかで、ベストは尽くしたつもりです。もちろん自分自身もチームも、パフォーマンスが完璧だったとも思わないですけど、選手としてもチームとしても確実に成長できると思うし、若いうちの苦労はね、買ってでもしろということで」

 冗談交じりに語るが、決して簡単な準備ではなかっただろう。だが、10月にアウェイでサウジアラビア代表に敗れてから、帰国して中4日で迎えるオーストラリア代表戦までの流れの中でも、選手たちの準備への徹底したこだわりは垣間見えた。日本代表は自立した“準備の鬼”が揃った超プロフェッショナル集団なのである。

 彼らと同等のレベルで事前の準備に徹底してこだわれなければ、日本代表として戦えないという極めて高い基準を示したとも言える。逆境にも屈せず最大限の努力を尽くせて初めて、日本代表として戦う資格が得られるのかもしれない。

「1つ勝ったことと、ここを乗り越えたことは確実にチームの血肉になると思いますし、オマーン代表にも、他の上の2つ(オーストラリア代表とサウジアラビア代表)にもプレッシャーをかけられる状態になって、他力ではなく自分たちしだいで順位を塗り替えられるところまで、やっと盛り返せたなと思っています」

 ベトナム戦を終えた吉田は安堵感もにじませていた。一方で「どのチームも1つミスが起これば(立場が)大きく変わってしまうのは僕らも同じなので、勝ち点を積み上げていくだけ」と再び気を引き締めていた。

 今度はベトナムからオマーンに移動し、アウェイでの大一番に挑む。伊東は「前回ホームで負けているので、しっかり借りを返したい」とリベンジへの決意を語っていた。日本代表の面々は長距離移動を挟んでの次戦に、これまで同様の完璧な準備をして臨んでくれるに違いない。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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