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Jリーグ 2年前

永木亮太との抱擁。そのとき曺貴裁は何を思ったのか? 「僕は失敗した人間」と言った指揮官が作る京都サンガのスタイルとは【コラム後編】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

「湘南スタイル」に苦しめられた京都サンガ



 33歳になったかつての愛弟子の“いま”に曺監督が目を細めれば、JFA・Jリーグ特別指定選手として湘南に登録された2010シーズンの「41」を背番号に選び、4戦目で初めて先発を果たし、最後まで京都の脅威になり続けた永木も続いた。

「曺さんは一番お世話になった恩師なので、試合前に挨拶に行くのは当たり前だと思っていた。自分のことをずっと見てくれてるし、自分も曺さんのことは気にかけていた。試合前や終わった後に挨拶できる関係性は、自分にとって本当にありがたいと思う」

 3度におよぶJ1昇格に2018シーズンのYBCルヴァンカップ制覇を加えた湘南時代の軌跡は、いつしか「湘南スタイル」と命名されてサッカー界で幅広く認知された。

 もっとも「湘南スタイル」に戦術的な定義はない。攻守をスピーディーに切り替え、かつ攻守両面で常に数的優位な状況を作り出しながら、特に攻撃面では勇気を込めて繰り出す縦パスをスイッチに変えた湘南時代の戦い方は手段のひとつでしかない。

 ピッチ上でプレーする選手たちとスタンドを埋めるファン・サポーターが明確な価値観を共有し、湘南に関わるすべての人々が「これがオレたちのサッカーだ」と胸を張れる瞬間を追い求めてきた。その過程こそが「湘南スタイル」だった。

 京都は「湘南スタイル」に苦しめられ、特に攻撃面を分断された。それでも京都も前半途中からシステムを4-1-2-3から3-3-2-2に変え、後半からはシステムをそのままに選手を変え、47分にはカウンターから先制点を奪った。

 今シーズン3ゴール目を決めたFWピーター・ウタカのもとへボールを運んだのは、湘南時代に曺監督の薫陶を受けたMF松田天馬であり、そしてMF武富孝介だった。

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