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Jリーグ 2年前

永木亮太との抱擁。そのとき曺貴裁は何を思ったのか? 「僕は失敗した人間」と言った指揮官が作る京都サンガのスタイルとは【コラム後編】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

試合後に曺貴裁監督が取った行動とは?



 あくまでも主役は選手たちという考え方もあって、一時は会見後に一人で挨拶に向かうことを逡巡していた。ただ、あまりにも中途半端だった3年前の別れ方に思いを馳せたとき、何もせずに京都へ帰る自分が許せなかった。

 必ずもう一度、姿を見せてくれる。そう信じて疑わなかった湘南のファン・サポーターの多くは家路に着かず、3つの方向へ頭を下げた曺監督を待っていた。

「僕はその時々、その場所場所で自分の持っている100%を全力で出すことに向き合ってきたつもりです。サッカーには勝ち、負け、引き分けがあるなかで、それだけではない感動を生んでいくプレーのひとつひとつを、いまは京都の選手たちと共有してやっていきたい。ただ、湘南さんで長く仕事をしただけに、チームに所属するみんなが幸せな気持ちであり続けることを、陰ながら祈っているという気持ちです」

 曺監督が言及した「無骨ながらもお客さまが湧くような場面」とは、京都を舞台として現在進行形で作り上げている、ニュアンス的な意味で「湘南スタイル」と同義語となる。

「成功と失敗という言葉が世の中に相対したものとしてあるとすれば、僕は間違いなく失敗した人間だと思っている。その中で自分が何をしなければいけないのか、ということに向き合ったときに、失敗から目を背けてはいけないと常に思ってきた」

 再出発を期す上で立てた誓い通りに、胸を張り、必死に前へ進むかつての指揮官の姿がただただ嬉しかった。コロナ禍で声は上げられない。だからこそ湘南のファン・サポーターが降り注がせた万雷の拍手は、魂のエールと化して曺監督の胸に刻まれた。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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