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Jリーグ 1年前

アルビレックス新潟、データから読み解く守備のコンセプトとは?【異端のアナリスト/後編】

text by 庄司悟 photo by Getty Images

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アルビレックス新潟が明治安田生命J2リーグを制し、6シーズンぶりとなるJ1昇格を決めている。J2優勝を果たした新潟のスタイルとはいったいどのようなものなのか、“異端のアナリスト”が「一枚の絵」で表した。10月18日発売の書籍『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』から一部抜粋して、新潟のスタイルを分析する。(文:庄司悟)


アルビレックス新潟の守備のコンセプト

 加えて、この座標軸で実に奇妙なのは、新潟と同じようにボール支配とパス回しを好む右上のゾーンにいる各クラブの順位である。同ゾーンの頂点にいる新潟を追いかけるような位置にいる東京ヴェルディが14位、レノファ山口FCが20位、大宮アルディージャが21位、ギラヴァンツ北九州が22位と、軒並み下位をさまよっているのだ。まして、4分の3がJ3降格圏内では心中穏やかではない。

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以前、雑誌のインタビューでアトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督が、「快楽を与えるだけのポゼッションなど相手にくれてやればいい」といった趣旨の発言をしていたのを思いだす。ボール支配時間の長さとパス精度の高さが順位に結びつけられていないこれらのクラブは、何か「見落としている大きなもの」があるのではないだろうか。「ポゼッション快楽問題」についての詳細は後程、言及させていただく。


【図3】

 


【図4】

さて、ここでJ2の先頭集団を走る新潟と琉球の「守備コンセプト」に着目したい。図3は各クラブの被シュート数を並べたもので、新潟の被シュート数88本は22クラブの中で最も少ない。逆に、琉球の被シュート数は153本と22クラブの中でブービーの多さとなっている。失点率(縦軸)×被シュート数(横軸)の座標軸(図4)を眺めても、琉球が右上のゾーンの頂点、新潟が左上のゾーンの最も左に位置し、1位と2位と順位は近いにもかかわらず、被シュート数に関しては真逆のポジション取りをしているのは興味深い事象だ。この「守備コンセプト」における新潟と琉球の大きな開きを見て、筆者は16年前に行われた2006年ドイツ・ワールドカップ後にFIFAのテクニカルスタディグループ(TSG)が発表した、大会レポーを思いだした。


【図5】

 TSGはそのドイツ大会を「まれにみる得点が少ない大会」と評している。その根拠は図5のように、ワールドカップが出場32チーム、全64試合制になって以降、大会全体の総得点数(147点)が最も少なかったことに起因している。1試合平均得点2.3にしても1966年のイングランド大会以降、ワースト2の低さだった。ただ、筆者はTSGによる「世界は年々、守備的になっている」という見立てに懐疑的だった。「本当にそうなのか?」と疑問に思い、ドイツ大会の全マッチレポートから被シュート数を集計したところ、一概に「守備的」とは言えないことがわかった。


【図6】

 図6を見ていただきたい。同大会でワールドカップ通算4度目の優勝を成し遂げたイタリア代表の失点はわずか2で、それも内訳はペナルティーキックとオウンゴールだった。確かにこの数字だけを見れば「守備的」と思いがちだ。にもかかわらず、イタリアの被シュート数は80本と異様なまでに多かった。逆に、準優勝に終わったフランス代表は失点3で、こちらの被シュート数は51本と極端に少ない。1試合平均にするとフランスは7本ちょっとしかシュートを打たれていないことになる。つまり、「シュートは打たせても入れさせない」イタリアに対して、「とにかくシュートを打たせない」フランスという、「守備コンセプト」の違いがあったわけだ。

<書籍概要>

『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』

定価:1,980円(本体1,800円+税)
著者:庄司悟

これを読まずして現代サッカーを語ってはいけない

“異端のアナリスト”庄司悟はこれまでピッチ上で起こる様々な「主旋律」を、誰もが一目でわかる「一枚の絵」で表してきた。「2軸」「非対称」「皿と団子」「同期・連動」「連動→連鎖→連結→連続」「志・智・儀」といった“異端用語”を駆使しながら、ペップ・グアルディオラ、ユルゲン・クロップ、ユリアン・ナーゲルスマン、ハンス=ディーター・フリックたちが標榜する世界最先端の現代サッカーを「一枚の絵」で明らかにする。

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【了】

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