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「戦術・三笘」と言うのは日本だけ。サッカー日本代表の同点弾に演出した三笘薫の意図【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子

「戦術・三笘? いや、日本だけだと思いますよ。そう言ってるのは」



 冨安から縦パスを受けた三笘は、ゆっくりと加速しながらペナルティエリア付近まで侵入。ニクラス・ズーレが寄せてきて、さらに中にいたレオン・ゴレツカもカバーに来た瞬間を見逃さず、彼らの背後に絶妙のパスを送った。そこに南野拓実が反応。角度のないところからシュートを放った。次の瞬間、名手のマヌエル・ノイアーが弾くと、飛び込んだのが堂安。背番号21は左足を振り抜いて豪快にネットを揺らし、試合を振り出しに戻したのだ。

「最初のズーレ選手の対応を見て、縦を警戒するのは分かっていた。次も縦を切ってましたし、中に食いついてくる瞬間にギャップができたので。そこを拓実君が素晴らしい動きをしてくれた。その後は僕の力ではないですし、拓実君のシュートの可能性を信じて律も入りましたし、チームとしての結果だと思います」

 三笘はあくまで黒子に徹した結果だと強調する。にもかかわらず、得点に直結するプレーを見せてしまうから「戦術・三笘」と評されるのだ。

「戦術・三笘? いや、日本だけだと思いますよ。そう言ってるのは」と本人は軽く流したが、ブライトンで先発出場の機会を増やし、確固たる自信を身に着けたことが、余裕あるプレーにつながったのだろう。

 この8分後に浅野拓磨の値千金の逆転弾が生まれ、日本代表はついに1点をリード。終盤は相手の猛攻を受けたが、三笘は決して動じることはなかった。守備面では対面がヨナス・ホフマンに代わったため、昨季1シーズン在籍したウニオン・サンジロワーズ時代の経験を踏まえ、前向きの守備とボール奪取という2つのポイントを心掛けたようだ。

 攻撃面も縦に急ぎ過ぎず、あえてボールを持ってボールキープを選択し、時間を作ることも忘れなかった。彼のところで落ち着きどころができるとチーム全体が一呼吸できる。体力消耗の終盤にこういった頭脳的なプレーを入れられる選手は本当にありがたい限り。それも含め、三笘がもたらす安心感は大きかった。

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