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意表を突いたアルゼンチン代表の策略とは? フランス代表を苦しめた方法【カタールW杯】

シリーズ:分析コラム text by 西部謙司 photo by Getty Images

「新たなチームのあり方」でアルゼンチン代表が結束



 フランス代表の大攻勢を何とかしのいだアルゼンチン代表は、延長に入ると息を吹き返した。交代出場のラウタロ・マルティネスが続けざまに際どいシュートを放ち、109分にはラウタロの強烈なシュートをGKウーゴ・ロリスが弾いたこぼれをメッシが押し込んで3-2。今度こそ勝負あったかと思われたが、エンバペのシュートがブロックに入ったゴンサロ・モンティエルの肘に当たってPK、またしてもエムバペが決めて3-3となった。

 死力を尽くしての攻防は決着がつかずPK戦へ。コマンとオレリアン・チュアメニが外したフランス代表に対して、4人全員が決めたアルゼンチン代表の優勝となった。

 敗者のいないファイナルだったといえる。カリム・ベンゼマが大会前に負傷離脱、クリストファー・エンクンクも負傷。決勝前には体調不良者が続出。ジルー、デンベレ、グリーズマンを交代しなければならない状況から盛り返したフランス代表の底力は強烈だった。とくにハットトリックのエムバペは改めてメッシに代わるスーパースターとしての能力をみせつけた。

 アルゼンチン代表はいうまでもなくメッシのチームだ。これまでのようにメッシに頼るのではなく、全員でメッシを盛り立てていくチームだった。ペレやディエゴ・マラドーナも絶対的な存在だったが、35歳のエースとなればもはや生きる伝説である。プレーだけでなく象徴として、1人の選手を中心に結束していくのは新たなチームのあり方だった。

 メッシを主人公とした物語を書くなら、これ以上の結末はないだろう。サウジアラビア代表戦の敗北からの勝ち上がり、あまりにも劇的なファイナル。5大会でありとあらゆる記録を塗り替えながら、唯一足りなかったトロフィーを勝ち取った。そのキャリアにはもはや一点の曇りもない。ただ、トロフィーを渡す役がマラドーナであったなら、より完璧だっただろうというだけだ。

(文:西部謙司)

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