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Jリーグ 11か月前

2秒で3つの選択肢。伊藤涼太郎はそのとき何を考えていた?ファンタジスタが見ていた景色【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

伊藤涼太郎が見ていた景色「いろいろな選択肢があった」



 トラップから反転しながらボールを利き足の右足で蹴れる場所に置き、湘南ゴールを射抜いた谷口が、お互いのプレースタイルを熟知した以心伝心のプレーだったと声を弾ませる。

「(伊藤)涼太郎が相手のタイミングを外して、うまくゴール前へパスを出してくれました。やっぱりあいつは(相手のタイミングを)外す動きであるとか、相手の逆を突くプレーが得意なので、あの場面は『ここにほしい』と要求したタイミングで目と目があったと思っています」

 ここで見逃せないのが、伊藤の他に敵味方を合わせて9人もの選手がいたバイタルエリアで、高橋の背後に生じたスペースを瞬時に見抜いていた点だ。ピッチ上を平面的に見わたすだけではなく、まるで上空から把握するような、いわゆる俯瞰的な視野をも持ち合わせている証と言っていい。

 2-2で迎えた後半アディショナルタイムの91分にも、伊藤の特異な感覚が再び頭をもたげた。

 新潟の猛攻を湘南が必死に食い止めるも、クリアが小さくなる。ペナルティーエリア内から外へ、湘南ゴールから遠ざかる形でボールを拾った伊藤が、右足で蹴れる場所にボールを置きながら時計回りに体を反転させる。直後に視界に飛び込んできた景色を、次のように説明してくれた。

「湘南は中央の守備がかなり堅いチームですけど、唯一、自分がボールを持ったあの場面で隙が生まれたというか。ターンしたときにいろいろな選択肢があったなかで、相手の選手たちが僕のパスコースを消すような守備をしてきた。なので、逆にシュートコースがけっこう空いていました」

 このときも後ろ向きでボールにファーストタッチしてから前を向き、最終的なプレーを決断するまで2秒ほどしか要していない。ほんのわずかな間にゴールが決まる確率が最も高いコースを選択し、ペナルティーエリアの左角あたりから狙いを定めて右足を振り抜いた。

 ターゲットは対角線上のゴール右隅。ボールはその一番上を、緩やかな弧を描いて飛んでいく。虚を突かれた湘南の守護神ソン・ボムグンが必死にダイブするも届かない。しかし、ボールは無情にも右ポストの右側をかすめてしまう。そのまま引き分けた試合後。自戒を込めて伊藤が振り返った。

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