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躍進の理由は? アストン・ヴィラを蘇らせたエメリ監督の手腕。壮大なプロジェクトとアーセナルとは正反対の環境【コラム】

シリーズ:編集部フォーカス text by 安洋一郎 photo by Getty Images

アストン・ヴィラとエメリが見る夢


【写真:Getty Images】


 エメリにとって大きいのが、アストン・ヴィラが過去に成功を収めたセビージャやビジャレアルとは異なる財政規模のクラブであることだ。

 アメリカの経済誌『Forbes』によると、オーナーの総資産はそれぞれ、ナセフ・サウィリス氏が69億ドル(約9936億円)、ウェズ・イーデンス氏が34億ドル(約4896億円)に上るとされている。この総額はプレミアリーグでは、ニューカッスルとマンチェスター・シティに次ぐとも言われており、彼らが惜しみなくクラブに投資をしたことで、当時2部に沈んでいたアストン・ヴィラは大幅に強化された。

 潤沢な資金があるため主力の売却が必要なく、18年夏に現オーナーとなってからスタメンの選手で引き抜かれたのは21年夏のジャック・グリーリッシュの一例のみ。これも「UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場クラブから(当時の英国記録である)1億ポンド(約160億円)のオファーを受けた場合の契約解除条項」があったためであり、お金に目をくらんで主力を放出したことは一度もない。

 そのため常に戦力を上積みすることが可能で、昨季終盤の時点で完成されていたイレブンに今夏だけでもムサ・ディアビやパウ・トーレスらを加えて、より選手層を厚くすることに成功した。

 ただ戦力を補強するだけでなく、主力選手の契約延長も着実に進んでいる。エメリが監督に就任した直近の1年間だけで、タイロン・ミングス(2026年夏まで)、ジョン・マッギン(2027年夏まで)、エズリ・コンサ(2028年夏まで)、オリー・ワトキンス(2028年夏まで)の4名と新契約を結んだ。

 そのほか、ドウグラス・ルイスやエミリアーノ・マルティネスら他の主力選手とも軒並み長期契約を結んでおり、その全員が、アストン・ヴィラが掲げる「CL常連クラブ化&CL優勝」というプロジェクトにコミットして契約にサインをしている。

 こうした戦力のアップデートと主力のプロテクトはセビージャやビジャレアルなどではできなかった。その結果が現在の3位という順位である。

 勝利したマンチェスター・シティ戦後にエメリは、いつも通り「自分たちは優勝候補ではない。他に7チームある、次節アーセナル戦に向けて集中しないといけない」と浮足立つことなく言葉を綴った。その中で「もちろん自分たちのやり方でトロフィーをかけて戦う」と、タイトル獲得が目標であることを明言した。

 今季はプレミアリーグ、1月から3回戦が始まるFAカップ、そして既にグループステージ突破が決まっているカンファレンスリーグの3つの大会が残されている。このどれかでも獲得すれば、長らくメジャータイトルから遠ざかるアストン・ヴィラにとって大きな一歩となる。

 エメリに賭けたアストン・ヴィラと、それに応えるように結果を出したエメリ。両者の強い絆がプレミアリーグ、そして今後の欧州サッカーをかき乱すかもしれない。

(文:安洋一郎)

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【了】

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