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Jリーグ 8か月前

「お前は今、始まったんだ」川崎フロンターレの大先輩が涙する土屋櫂大に声をかけた。残酷なデビュー戦のエピローグ【コラム】

シリーズ:コラム text by 菊地正典 photo by Getty Images

涙が溢れた。試合後に脳内を占めたのは…

 DFとしての大先輩であり、昨年までの3年間ユースで指導を受けていた佐原秀樹コーチ、キャプテンの脇坂泰斗や副キャプテンの佐々木旭に声を掛けられた後、タッチラインをまたいだ。少しの緊張もあったが、このために重ねてきた努力と、アクシデントだろうが自分が選ばれた事実を自信に変えていく。

 ピッチに入ると一つ大きく息を吐き、ユース時代の2学年先輩でもある高井幸大に左右が入れ替わることを伝える。同じく2年先輩の大関友翔、そして高井とがっちり右手を握りあった。そして手を叩きながら大声でチームメイトに声を掛ける。ユース時代もキャプテンとして数え切れないほど取ってきた行動だった。

 しかし、待っていた結果は残酷だった。

 自身がピッチに立ってから2失点。高井のヘディングシュートで同点に追いつき、勝ち点1を得た。それでも脳内を占めたのは、屈辱感と敗北感。とめどなく涙が溢れた。

 スタジアムを一周し、最後にメインスタンドのファン・サポーターにあいさつする。土屋はお辞儀しながらひざに両手をつくと、頭を上げるタイミングが周囲から遅れた。深々とお辞儀したというよりは、うなだれた頭を上げるのに時間がかかったという様子だった。

 その少し前、メインスタンドの前で足を止めた際に土屋を励ますように肩を叩く選手がいた。安藤駿介だ。土屋から見て16歳上のユースの大先輩は、後輩の後ろを歩きながら様子をうかがっていた。
 

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