まだ若かったあの頃。腐りかけていた松原を奮い立たせたのは…
勝利から遠ざかっていた上、キャプテンの喜田拓也が離脱していた時期だ。松原は副キャプテンとして、マリノスで2度のリーグ優勝を経験している身として、リーダーの重要性と自身がその役割を担わなければならないことを熱弁していた。
そんな取材が終わった後、記者にでも近くにいた広報にでも誰に伝えるでもなく、まるで数分前とは別人のように不安そうな声を漏らしていた。
松原は根っからのリーダー気質ではない。マリノスが15年ぶりにリーグ優勝を果たした2019年、26歳だった松原は先輩に引っ張られるタイプだった。前年をレギュラーとして過ごしたものの、同シーズンは開幕から新加入の広瀬陸斗(現・ヴィッセル神戸)にポジションを奪われ、熾烈なポジションを繰り広げながらもメンバー外になる試合も少なくなかった。出番から遠ざかると、愚痴をこぼすことも増えていった。自分以外の誰かへの不満を漏らすこともあった。
しかし、シーズンが佳境に差し掛かろうとするころにレギュラーの座を奪い返す。
腐りかけた松原を奮い立たせたのは、先輩たちだった。大津祐樹や李忠成といった日本代表や海外クラブでのプレーを経験している選手たちが出番を得られなくても文句一つ言わず、練習で全力を尽くしている。
「俺はこのままじゃダメだ」