この日の試合に懸けていた。しかし、現実は残酷だった
先輩たちの背中を見ながら気づいた松原は人のせいにすることをやめ、矢印を自分に向けて練習から全力を尽くした。リーグ戦実に18試合ぶりのスタメンの機会こそ広瀬の負傷により回ってきたチャンスだったが、以降は最終節まで9試合連続でフル出場を続け、優勝の瞬間をピッチで迎えた。
この試合の松原はもう、6年前の松原でも半年前の松原でもなかった。何より、松原はこの試合に懸けていた。
古傷の右膝の痛みにより、3月初旬から欠場が続いていた松原にとって2試合の途中出場を経て3月4日の上海上港戦、敵地でのACLE・ラウンド16の戦い以来のスタメン出場となった。
「今シーズンはふがいない戦いが続いているのに、それでもサポーターのみなさんは僕らを信じて声が枯れるまで応援し続けてくれている。僕らはもっと責任感を持ってそんな気持ちに応えなければいけない」
しかし、現実は残酷だった。
松原の叱咤も虚しく、チームに反撃する力は残っていなかった。前半は今季の守備的な戦いが嘘のようにアタッキングフットボールを展開したが、1点を失うと途端に瓦解した。
試合終了を告げるホイッスルが鳴ると、松原はピッチに手を叩きつけた。悔しさと怒りに身を任せるように、何度も、何度も。
優勝を目指すはずのチームが、昇格組を相手にふがいない姿を晒した。松原は悔しさや怒りを抑えることはできなかった。それでも、スタジアムを一周してファン・サポーターにあいさつしなければならない。大ブーイングを受けても仕方ないと松原は思っていた。
「何なら思い切りブーイングされて、みんながケツを叩かれて目を覚ます方がいいと思った」
だが、耳に飛び込んできたのは、予想外の音だった。