彼らをじっと見つめた。そして、動くことができなかった
錨を上げろ 果敢に挑め
共に強いマリノスを 勇ましくあれ
ブーイングもなかったわけではないが、それをかき消すかのように大音量のチャントがスタジアムに響く。
その歌声の主であるコアサポーターが集うゴール裏に来ると、チャントの声量はさらに上がった。
チーム全員で一礼する。松原はそのまま腰に手を当て、彼らをじっと見つめた。自身の左側に立った選手たちがメインスタンドに足を進めてもなお、松原はその場から動かなかった。いや、動くことができなかった。
「みんなは声を枯らして頑張ってくれているのに、僕らが最後までやり切れていない、勝ち切れていないということはすごく悔しい。だから彼らの声を正面で受けて動けなかった」
マリノスのサポーターはいつも歩み寄ってくれる。他のチャントの歌詞にもあるように、「俺たちがそばにいる」ことを示してくれている。
こんな無様な戦いを見せたのに――。
そう思うと、理性が崩壊した。再び込み上げてくる悔しさ、そして涙を抑えられない。うなだれ、膝に手をつくと、朴一圭やトーマス・デンの力を借りなければ起き上がることもできなかった。
「何を言われようと必ず勝ち点3を取って、結果で見せるしかないという気持ちで入った。そういう試合を落としてしまうというのは、非常に悔しい」
毎試合後に行っているケアを終え、報道陣の前に姿を見せたのは試合終了から1時間半以上が経過していたが、なおも悔しさをにじませる。
それでも、精神的な切り替えが済んでいなかろうと、先へ目を向けた。清水戦から4日後の4月20日にはアウェイ、埼玉スタジアム2002での浦和レッズ戦に臨む。その翌日にはサウジアラビアに飛び、ACLEファイナルズの戦いに挑む。
「埼スタはアウェイ独特の雰囲気、ACLに似ているような雰囲気がある。あの雰囲気の中でしっかりと勝ちきることができればACLでもいい結果を望めると思う。今の僕らは勝つしかないし、中3日でしっかり切り替えてやるしかない。それだけ」
試合後のあいさつで泣き崩れるなど今までにない経験だった。だが、試合は続く。まだ何も終わってはいない。
(取材・文:菊地正典)
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