井手口陽介には“山口蛍化”が求められる
「(今季前半戦は)いい時も悪い時もあった。悪い流れの時でも最低限の仕事を果たさなければいけなかったけど、個人としてもチームとしても、それができていなかったかなと。後半戦は勝ち点を簡単に落とせないし、しっかり試合巧者でありたいなとは思います」と本人も神妙な面持ちで語ったが、ここからは“3連覇請負人”として異彩を放っていく必要があるのだ。
井手口のそれだけのポテンシャルがあることは誰もが認めている。20歳だった2017年にヴァイッド・ハリルホジッチ監督から日本代表に呼ばれ、同年8月末の2018年ロシアワールドカップ(W杯)アジア最終予選の大一番・オーストラリア代表戦(埼玉)で値千金の2点目をマークしたことは、今も多くのサッカーファンの脳裏に焼き付いているはずだ。
さらに、同年12月のE-1選手権(日本)でも鋭いボール奪取能力を前面に押し出して強烈なインパクトを与えた。翌2018年1月からは活躍の場を欧州に移したほどだ。
ロシアW杯のメンバー入りはあと一歩のところで叶わなかったが、当時20歳そこそこの井手口は確かに光り輝いていた。その凄みが神戸で完全に出ているとは言い切れない部分があるだけに、ここからの後半戦で一気にギアを上げていくべきなのだ。
実際、今季は昨季までのキャプテン・山口蛍(長崎)が移籍。山口は「若い選手たちにチームを託せる」と判断して、外に出る決断をしたという。その筆頭が井手口である。
彼も気づいてみれば、今年8月には29歳。であれば、もっともっと円熟味のあるパフォーマンスを示し、言動含めてリーダーシップを発揮していかなければいけない。吉田監督もそういった自覚を持ってほしいと願っているのではないか。
「まだ先は長いんで、1試合1試合しっかりやっていくだけ。積み重ねが大事かなと思います」と彼自身も先を見据えていた。井手口が“山口蛍化”し、扇原に頼らない中盤を形成できれば、神戸の3連覇も見えてくるかもしれない。
それを実現できるように、背番号「7」は前向きな変化を遂げなければならない。井手口の一挙手一投足が、夏場以降の神戸の成否を左右すると言っても過言ではないだろう。
(取材・文:元川悦子)
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