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連載コラム 11年前

元Jリーガー・西村卓朗の新たな挑戦 第3回・監督としてのデビュー。チームマネジメントの葛藤と覚悟

サッカー批評誌上で2007年から5年間「哲学的思考のフットボーラー 西村卓朗を巡る物語」という連載を行っていた西村卓朗氏。現役引退後、VONDS市原の監督として新たな一歩を踏み出しました。

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3月3日 On the pich

 千葉県選手権の1回戦。対中央学院大学戦。

 天皇杯につながる大事な試合。チームの指揮を執るようになってから約1ヶ月が経っていたので、選手の特徴、性格、実力などもだいぶ把握できてきていた。

 2月中には関東リーグ1部のチームとも練習試合をいくつか組み、自分達の実力がどの程度なのかということを把握することに注力をしていた。

 練習試合は内容、結果ともに上々でプレシーズンはいい形で終えることができ、それなりに手応えもあったものの、どこか心にひっかかる点もあった。(今にしてみれば自分の監督としての公式戦経験がゼロだったということだけが不安の要因だったのだと冷静に思うが……)

 ひとつだけ想定できなかったことが、学生相手に練習試合をあまり組めなかったこと。社会人と学生ではやるサッカーに違いがあるので、そこだけが見通しが立てづらい要素だった。

 案の定そのような不安はすぐに的中する。

 開始30秒でビックチャンスを作られ、その3分後に失点。実力的にはこちらが上なのは明らかだったが、何人かの選手がゲームに入りこめていない時にはこのようなことが起こるものである。

 今だからこそ白状するが、失点した時は本当に足が宙に浮くような感覚にあり、地に足がつかない、何とも言えない落ち着かない状態が数分続いた。

 その後に特別大きな指示や、戦術変更をしたわけではなかったが、2分後には同点に追いつき、10分後には逆転できた。前半終了間際にも点をとりスコアーは3-1になっていた。

 おそらく後にも先にも、1失点であそこまでうろたえることはないのではないか。監督として初めての公式戦での失点は自分に今まで味わったことのないパニックを与えてくれた。

 良いことではないが、さすがに数試合指揮をとっていると失点にも慣れるもので、その時の現象をしっかり見れるようになる。あの感触は一度きりのものなのか、他の監督経験がある方々にも聞いてみたいものである。
最終スコアは4-1で初の公式戦は勝利することができた。

 試合後は現状や試合内容を選手たちの前で総括し、終わるようにしている。今でこそ少し慣れてきたが、年下とはいえ、大の大人に対して、毎回輪の中心で自分の想い、考え、感じたことを話すというのはなかなかエネルギーのいることで、毎回一生懸命自分の経験、体験、大事にしている物の見方などを引っ張り出して話すようにしている。改めて、この立場は信念、経験、情熱、また新しいことを吸収する姿勢が必要だと感じる毎日である。

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