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戸田和幸という生き方(後編)

text by 大泉実成 photo by editorial staff

中田英寿と勝負、その結果は?

 ヨーロッパから日本に帰った当時の戸田は、選手としての強い上昇志向からヴェルディへの移籍を求めたが、年とともにそれは変質していった。広島時代はベテランとしてチーム全体の潤滑油になろうとし、それがうまくいかなくなると引退を考えた。千葉ではついに骨を埋められるチームが見つかったと喜んだ。

 上昇志向のもたらす強いエネルギーと、一方で愚直に現実にぶつかっていく姿勢。それが彼を突き動かし、さまざまな体験をもたらし、それを消化することで精神が成熟していく。戸田の表情に刻まれるようになった深みは、その過程を物語っているようだった。

──この間、2006年のワールドカップがありました。その後、中田選手が引退します。

戸田 チームになってなかったですからね、外から見てると。何で引退したのかはわかんないですけど、自分がもう、自分が思っている自分じゃなかったのかもしんないし。サッカーがつまんないと思ったのかもしんないし。まあ人それぞれだから。

 彼は凄い厳しい人だから、自分にも厳しいし、周りにも厳しい人なんで、多分あのチームではそれがうまくできなかったのかなっていうのもあるし。でもあの人も不器用なんじゃないかな。そんなに器用な人じゃないと思います。

──そういう感想が中田さんについて出てくるのは初めてですね。

戸田 いや、不器用なんじゃないですか。で、かっこつけてるだけで。変な意味じゃなくて。だからさらけ出してないと思うんだよね。俺と卓球勝負したときはさらけ出してたと思うんですけど。

──(笑)勝負の結末は?

戸田 勝ちましたけどね(笑)。なんか、俺はこうあるべきだって、あるべき自分に向かって必死に生きてる人みたいな気がするな。実は僕もちょっとそういうところはあるんですけどね。サッカー選手はこうあるべきだ、人として俺はこうあるべきだ。そういう理想みたいなものに向かって生きている人みたいな気がしますね。

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