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戸田和幸という生き方(後編)

text by 大泉実成 photo by editorial staff

「オランダから始めるほうがヨーロッパに慣れる」

 それまでの人生で戸田の推進力となっていた4つのストロングポイントについて、僕は前編でこう書いた。「常に上を見て上の人間に追いつこうともがく強烈な上昇志向」、「出口の見えない闇に放り込まれても生き残りのための方法にたどり着くサバイバル能力」、「自分が何をすべきかを考え続け、それを整理し探し当てることのできるクレバーさ」、「一度方向が決まれば、徹底してそれまでの自分を作り変えていくことができる柔軟性と自律力」。

 しかしこれらが、ことごとく裏目に出る。イングランドでのサバイバルを果たすべく、何をすべきかを考えたあげくに行き着いた「フィジカルの強化」という結論。戸田は強い上昇志向をエネルギーとして再び自分を作り変えようとハードなトレーニングに明け暮れるが、それは自分の体を壊し、戦線から2ヵ月半も離脱するという結果を生むことになってしまった。最強の札を4枚揃えたはずなのに、なぜ最悪の結果になったのか。

──振り返ってみると、やはりこの怪我が大きかった。

戸田 まあそうですね。怪我してなきゃ、とりあえず開幕はレギュラーでしたからね。ただその先はわかんないですけど。だから怪我をするのも実力のうちなんですよ。

──それまで大きな怪我というのは無かったんですか。

戸田 膝に内視鏡を入れたこともありますし、19歳のときは足首の筋を断裂したので、可動域が小さくなってるんですよ。多分その影響が肉離れにきてるんでしょうね。まあしょうがない、みんなどこかしら悪いですから。

 でも、プレミアリーグは夢の世界でしたね。もし僕がもう一度海外に行くチャンスがあるなら、プレミアリーグからは始めないです。だってその後オランダ行ったら、全然できましたから。

 だから本田君じゃないけど、オランダから始めるほうがヨーロッパに慣れるという意味ではベターだと思う。やっぱり試合に出ないと話にならないのでね。いきなり日本からプレミアの名門に行ってしまうとレベルがボーンと上がりますから。だから今イングランドに行くなら2部から始めると思う。ただ、その当時はそういう知識がなかった。

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