プロという厳しい道を選んだ高野

　高野光司はアスルクラロ沼津から鹿児島ユナイテッドFCに移籍することになった。プロ生活5年目にして、5チーム目ということになる。

　沼津では、日々のトレーニングや試合のほかに、サッカースクールのコーチやフットサルの審判といった業務があった。子どもと一緒にボールを蹴るのは楽しい時間だったが、丸一日休める日がほぼなかったのには閉口した。そこで高野は、これまでのサッカーだけに集中できる環境はとても恵まれていたのだと知った。

「大変は大変でしたけど、移籍の理由はそういうことではないんです。夏頃にはだいたい身体が慣れましたから。鹿児島からプロ選手として評価を受け、オファーをいただいた。もう一度、その環境で勝負してみたいと思った」（高野）

　正月は家族とのんびり過ごした。父はハンドボール、母はフェンシングの選手というスポーツ一家である。高野の高い身体能力は親譲りだ。

　食事の席で父から問われた。「コウジは何のためにサッカーを頑張ろうと思うんだ？」というストレートな問いである。

「僕、うまく答えられなくて……。もちろんサッカーが好きだし、自分のためだし、家族のためだし、いろいろ浮かんだんですけど、びしっと言えなかった」

　おっとりした性格の高野に対し、美人と評判の姉は大層気が強いらしい。あんたしっかりしなさいよと発破をかけてきた。

「だから、もうひとつ何か強いものを見つけられたら、もっと成長できるんじゃないかって」