フットボールチャンネル

ドルトムント、新たな“ボス”の肖像。息づくトータルフットボールの哲学と高度な守備戦術

text by 中田徹 photo by Getty Images

急転直下のドルトムント行き。オランダ国内に走った衝撃

ボス
ペーター・ボス監督はすでにドルトムントでのシーズンをスタートさせている【写真:Getty Images】

 一方で、ここぞという大一番の経験に欠けたのが、ボス監督率いるアヤックスの限界だったのかもしれない。ボス監督がこれまで獲得したタイトルは2002年にAGOVVをオランダアマチュア王者に導いたことと、2005年にヘラクレスをオランダ2部リーグで優勝させて1部に昇格させたことくらいだ。

 勝ち点81を稼ぎながらフェイエノールト(勝ち点83)に逃げ切られたのは不運だったとも言えるが、シャルケとの延長戦(4月20日のEL準々決勝2ndレグ)の激闘3日後のPSV戦でローテーションをせず0-1で敗れてしまったのは優勝争いのキーポイントとなった。ELの決勝でも、ジョゼ・モウリーニョの徹底したアヤックス対策に、ボス監督は手を打てずじまいだった。

 とはいえ、ここのところ元気のなかったオランダサッカー界に、ボス監督率いるアヤックスは自信と誇りと明るい未来を取り戻してくれた。マンチェスター・ユナイテッド戦直後も「私は来季もアヤックスで指揮を執りたい」と語ったボス監督の言葉に、アヤックスはさらなる高みに向かうだろうと信じたファンは多かったはずだ。

 それだけに、その舌の根が乾かぬ6月6日にボルシア・ドルトムント監督就任が発表されたのは、オランダ国内でも大きな衝撃として受け止められた。

 トーマス・トゥヘルと袂を分かったボルシア・ドルトムントはルシアン・ファブレの招聘に乗り出したが、ニースに断られてしまった。そこでターゲットをペーター・ボスに切り替え、500万ユーロ(約6億5000万円)の違約金でアヤックスと合意に達した。

 第1期ヘラクレス時代(2004-06年)からずっとアシスタントを務めているヘンドリー・クルゼン、フィテッセとマッカビ・テルアビブで支えてくれたアルベルト・カペジャスという2人のコーチを引き連れ、ボスはボルシア・ドルトムントを指揮する。

1 2 3 4

KANZENからのお知らせ

scroll top