アカデミーの選手として準優勝を記憶に焼きつけていた三好と板倉
堅守速攻という経験値を全員が脳裏に刻んだことで、11人で戦うときに必要な状況が訪れれば、中村をして「相手を泳がせて、カウンターで仕留められるチーム」に試合中で変貌を遂げられる。
鬼木監督のもとで、泥臭ささを体得しつつある今シーズン。攻撃でも新たな幅をもたせ、なおかつ8年ぶり4度目の決勝進出を果たせた価値ある勝利に、中村もかつてない手応えを感じている。
「今年のチームに関しては正直、いままでとは違うな、と感じている。試合を重ねるごとに、自分たちがやるべきことをしっかりやれば、タイトルに近づいていると実感できるというか。隙のない、渋いチームになってきているので」
ベガルタとの第2戦では、実はもうひとつ、積み重ねられてきた歴史がプラスに働いていた。2007、2009シーズンの準優勝を、三好と板倉は会場だった国立競技場のスタンドで記憶に焼きつけている。
同じ1997年生まれの板倉より1年遅れて、2007年に三好はフロンターレのU‐12に加入した。当時のコーチが2006シーズン限りで現役を退き、指導者に転身したいま現在の鬼木監督だった。
「決勝戦は2度とも、アカデミーの選手全員で観戦しましたし、アカデミーながらも悔しい思いもしていた。あれだけすごい選手たちがいても、勝てないのかと。あのときも思いましたけど、自分がその立場になったので、アカデミーの子どもたちが来る前でタイトルを取れる、というのを見せたいですね」
埼玉スタジアムを舞台に、ともに初タイトルをかけてセレッソ大阪と対峙する11月4日の決勝戦で観戦するであろうU‐18以下のホープたちへ、クラブ生え抜きの三好は初の戴冠を見せたいと誓う。
J1に定着した2005シーズン以降の歴史が、タイトルに無縁だった悔しさを介して、いま現在をへて未来へと紡がれようとしている。三好の熱い決意を聞いた中村は、再び表情を綻ばせている。
「そういう選手が扉をこじ開ける、というのは素敵だよね。そういう選手が歴史を覆すのは。僕はもういいよ。アイツらが頑張れるように、伸び伸びとプレーさせるだけだから」