「優勝したときには、まず憲剛さんにカップを掲げてほしい」(小林悠)
三好の先制点を、相手の意表を突くノールックのヒールパスでアシストしたのは中村だった。ヒーローインタビューを受けている20歳を待ち、寄り添いながら一緒に挨拶へ向かったのも中村だった。三好が照れながら笑う。
「やっと来たな、と憲剛さんから言われました。待っていたぞ、という感じで。嬉しかったです」
2009シーズンの決勝戦で悔しさを味わわされたメンバーで今シーズンのチームに残っているのは、自分の他には登里享平と田坂、ベガルタ戦ではベンチ入りしていないDF井川祐輔しかいない。
そのなかでもJ2を戦っていた2003シーズンに中央大学から加入し、以来、フロンターレひと筋でプレーしてきたバンディエラ、中村が胸中に募らせてきたタイトル獲得への思いは誰もが知っている。
延長戦の末に鹿島アントラーズに屈し、二冠獲得を許した今年元日の天皇杯決勝を含めて、準優勝に泣くこと実に6度。いつしか“シルバーコレクター”と揶揄されるようにもなった。
2010シーズンに拓殖大学から加入し、中村が長く務めてきたキャプテンを今シーズンから引き継いだ小林が、勝利の余韻が残る取材エリアで胸を熱くさせるようなプランを明かしてくれた。
「優勝したときには、まず憲剛さんにカップを掲げてほしい。僕はキャプテンですけど、別に2番目でいいので。真っ先に憲剛さんに、という気持ちはあります。タイトルを取りたいという気持ちは一番強いと思うし、そこは譲りたいと考えています」
直近の対戦ではセレッソに5‐1で快勝しているが、一発勝負の決勝戦は何が起こるかわからない。奈良も出場停止となる。ゆえに慢心しているわけでも、相手を甘く見ているわけでもない。
それでも、分析を含めた準備をしっかりと整え、万全な心技体で臨めば――成長の途上にあるいま現在のフロンターレならば、勝機は十分にあるとチームに関わる誰もが手応えを深めている。
そして、クラブの悲願を成就させたときには、喜怒哀楽のすべてを知る大黒柱がロイヤルボックスの中央でカップを天に突き上げて、全員で咆哮をとどろかせる。最高にして理想のシナリオは、もうできあがっている。
(取材・文:藤江直人)
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