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Jリーグ 6年前

川崎F・谷口彰悟の激怒。奇跡の逆転優勝への覚悟。人事を尽くした先に待つ天命

text by 藤江直人 photo by Getty Images

狙いを定めた、こん身のスライディング

 しかし、谷口は冷静沈着だった。ズラタンのスピードと自身のそれとを比較して、追いつけるととっさに判断したのだろう。追いかけるスピードを加速させながら左手を振りあげ、大きなジェスチャーで守備陣形を整えさせる。合図は守護神チョン・ソンリョンに送られたものだった。

「キーパーのソンリョンが前に出そうな感じだったので。先にズラタン選手に走られましたけど、慌てるところじゃないなと思ったので『出るな』という指示を出して。ちょっと中を見たときには、奈良も戻ってきているのがわかったので」

 左手を振りあげながら奈良の姿を確認したときに、レッズの赤いユニフォームも視界に飛び込んできた。それも1人ではなく2人も。ペナルティーエリアの右側ぎりぎりのところへ走っていくズラタンとの距離を縮め、気配を感じ取りながら、谷口はある仮説を立てた。

「ズラタン選手はシュートよりもパスを選択すると、顔を見たらある程度予測できたので。そこでスライディングをして、防げたという感じです」

 角度的にもシュートは打ってこないと確信できたのだろう。ゆえに自身が走るコースを、ちょっとだけ左側へ旋回させた。そして、ペナルティーエリアに入ってきたズラタンが逆サイドへパスを送ろうと体の向きを変え、右足を振り抜いた直後だった。

 ファウルを犯さないようにボールだけに狙いを定めた、こん身のスライディングが絶体絶命のピンチを右コーナーキックへと変えた。このとき、ゴール正面にはMF長澤和輝が、逆サイドにはフリーのかたちでMF梅崎司が走り込んできていた。

 直後に全身を使ったジェスチャーとともに、阿部と車屋へ怒りを伝えたのは、長澤をケアする体勢を整えていた奈良だった。

「誰が悪いという問題ではなくて、こういう状況だし、チームとしてああいう危険なシーンは減らさなきゃいけない。彰悟君が止めてくれたから事なきを得たけど、点差を考えたらああいう軽率なプレーは命取りになるし、後ろとしては許せないことなので、僕もちょっと厳しくリアクションしました」

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