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女子サッカーの救世主か。なでしこリーグを無料放送、新興外資系配信企業「mycujoo」の正体

text by 舩木渉 photo by Getty Images, Wataru Funaki, mycujoo

橋渡し役は日本人。FIFAマスター卒業生が尽力

プレサ
mycujooの創業者である双子のプレサ兄弟。左がペドロ氏、右がジョアン氏。オフィスの壁にはボアヴィスタのユニフォームが飾られている【写真提供:mycujoo】

 というのもペドロ氏は当時スイス在住で、ボアヴィスタの試合はテレビ放送もなくスタジアムへ足を運ぶ以外に観る方法がなかったのである。「プレミアムコンテンツ以外のサッカーを観る場所が、既存のマーケットにない」ことがmycujoo設立のアイディアとなったとモルグリス氏は語る。

 設立当初は3人だったmycujooは、現在52人の大所帯に成長。本社を置くアムステルダム以外にポルトガル、ブラジル、シンガポールに拠点を置いている。昨年は60ヶ国から約4200試合が配信され、全世界で視聴回数4000万回を超える巨大なプラットフォームに成長した。

 特にアジアではAFC(アジアサッカー連盟)に加盟する47協会のうち29の協会と直接パートナーシップを結び、シェアを急激に広げている。毎節1試合を試験的にmycujooで配信している韓国のKリーグや、なでしこリーグのように協会レベルでなくパートナーシップを結んでいる国も含めれば、アジア30ヶ国以上でチャンネルが開設されている。

 では、なぜこのタイミングで日本の女子サッカーのトップリーグの配信権獲得に至ったのか。モルグリス氏はmycujooのルーツに理由があると教えてくれた。

「会社がチューリヒで設立されたこともあって、mycujooを最初に信頼してくれたパートナーはFCチューリヒの女子チームでした。実は我々は女子サッカーから始まっていて、それが今も女子サッカーを積極的にサポートしている理由でもあります。日本のなでしこリーグとパートナーシップを締結したのも、この最初のステップから始まった素晴らしいストーリーの一部なのです」

 そして、なでしこリーグの配信権の獲得に尽力したのは日本人の女性だった。FIFAマスター(スポーツに関する組織論や歴史、哲学、法律を学ぶ国際修士。FIFAとCIES[スポーツ研究国際センター]が提携して運営している)を修了した後、昨年10月にmycujooに入社した、辻翔子氏がプロジェクトを成功に導いた。

「私の同期や先輩、後輩もまだ現役選手としてプレーしている人が多くて、日本に帰れば見られるのですが、海外にいながら試合を見る方法が今まで全然なかったんです。せめて国内で配信されていたら日本のファンも見られますが、日本ですら配信されていないというのは私としても衝撃的で、なんとかしてそれを変えられたら…と思いました。選手としても見てもらいたい気持ちはすごく強いと思うので」

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