ミスをものともしない強靱なメンタル
「自信がすごい。何も影響させない。ミスをしても動じないので、それが次のミスにつながることがない」(フアン・マタ)
GKの中には、失点すると味方を叱りつける人もいる。味方の守り方に問題があって、それを指摘しているのだろうが、傍目にはストレスを解消しているようにしか見えない。
失点の大半はGKのミスである。それがミスとは見えなくても、GK本人が本当にどうしようもなかった失点というのは実はそんなにないものなのだ。ミスとはいえないまでも、何かが少し違っていたら防げた失点だったという自覚がGKにはある。もちろん、それはコンマ数秒の出来事なのでチームメートも観客もほとんど気づかない。
GKとストライカーは違う時間を生きている。たった1秒間でも、普通に生活している1秒の何倍も長く感じながらプレーしている。1秒で出来ることは限られているけれども、いくつかあった選択肢の何をすべきだったか、GKという人種は驚くほど細かく記憶している。1秒間は意外なぐらいいろいろなことを考えられるが、体はそんなに速く動かない。ゴール前では長い1秒を経験している。
失点したとき、GKは自分に何らかの落ち度があったことを知っている。逆に言えば、いちいち気にしていたら務まらない。チームメートを怒鳴りつけてストレスを解消するぐらいの権利はあってしかるべきかもしれない。
ただ、本物のストライカーがシュートを外しても引きずらないのと同じで、優れたGKはミスを次のプレーに影響させない。それはマタの言うように自信なのかもしれないし、ミスを引きずらないことを最初から決めているからかもしれない。デ・ヘアは怒鳴り散らすようなタイプではなく、淡々と何事もなかったかのようにプレーを続行する。強いフリをするのではなく、本当にメンタルが強いのだろう。
カリスマ的な守護神だったイケル・カシージャスの後継者となったデ・ヘアも、長くスペインのゴールを守ることになるだろう。
(文:西部謙司)
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