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代表 6年前

“アンチフットボール”など、「どーだっていい」。フランスを優勝に導いた草食男子の精神【ロシアW杯】

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

豪州戦後に放った指揮官の言葉

 ただ、W杯という特別な大会での優勝は、ピッチ上で素晴らしいプレーをすることだけでは実現できない。その他にとてつもなく多くの要素が絡んでいる。約2ヶ月間、家族や友達とも別れての合宿生活で、どうグループの輪を育み、精神面やコンディションを万全に保つか、一戦一戦ごとのプレッシャーにどう対処していくか。そしてサポートする側は選手たちのためにいかに最適な環境を整えられるか。

 80年代からフランスは準決勝5回、決勝には3度進出している。選手、コーチ陣、スタッフ、関係者すべて含めて、このサッカー界最高峰のトーナメントで上位進出できる組織力、運営力のノウハウがフランスにはあるのだろう。

 とはいえ、今大会のフランスは、優勝候補の一角には挙げられていたが、滑り出しは鈍かった。初戦のオーストラリア戦は2-1で勝利したとはいえ苦戦。試合後は選手たちも、「改めてW杯の厳しさを思い知った」と表情を曇らせた。

 ディディエ・デシャン監督も同様で、後日会見の席でこんなことを漏らしている。

「選手時代も含めて、これまでのキャリアでこれほど難しい試合が続く大会はない。いわゆる紙の上では優勢、というものの現実味はまったく存在しなくなった」

 しかし初戦での苦戦は、後からみれば、仕切り直しの機会になった。

 オーストラリア戦を見直して、互いを補い合うチームプレーに欠けていると感じた指揮官は、次戦から組織的な守備を中心としたプレーに切り替えた。そうして2戦目のペルーに勝利し決勝ラウンド進出を決めたところで、選手たちは初めて自信を得ることができたのだ。

 決勝戦の後に放送された、今大会でのレ・ブルーの軌跡を追ったドキュメンタリー番組で印象的なシーンがあった。

 オーストラリア戦後のダメ出しミーティングの最後にデシャン監督が言った言葉だ。

「いいか、全員だ。全員でプレーするんだ。見ていてごらん。そうすることでびっくりするほどいろいろなことが変わっていくから」こんなことを言われたら、誰でもつい試してみたくなってしまうだろう。

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