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Jリーグ 6年前

ポステコグルーと愛弟子ベリーシャ、Jで再び交差する運命。横浜FM指揮官と広島FWの絆

text by 植松久隆 photo by Getty Images

2人のJリーグでの挑戦は道半ば

 この夜、ポステコグルーは敗戦もあって多くを語らなかった。それでも、彼の考えをもっと知りたいと思い、翌日の練習に顔を出した。しかし、試合出場組のリカバリーが中心だったため練習グラウンドに指揮官の姿はなかった。代わりに、彼の現在の「右腕」であるアシスタントコーチを務め、監督不在のFC東京戦で指揮を取ったピーター・クラモフスキーに話を聞くことができた。

「アンジの下でこのクラブは大きな挑戦の途中だ。トップを目指すことだけを考えて、そのためにできることを確実に進めている。攻撃面での成果はスタッツが雄弁に語っているし、その方向性は間違っていない」と、酷暑の中、流れる汗を拭こうともせず語るクラモフスキー。

 その姿に既視感を覚えた。思えば、ブリスベン・ロアでの初年度、就任前からクラブに所属するベテラン選手との関係性や戦術面が浸透しないことで苦戦が続いた頃のポステコグルーは、結果が伴わない中でも必死に自分の思う理想を選手に熱く語って聞かせた。その姿格好が似ていることもあいまって、真夏の新横浜のクラモフスキーに、若き日のポステコグルーの姿を知らず知らずのうちに重ねてしまっていた。

 広島戦から中3日で行われたアウェイでの川崎フロンターレ戦。そこでも見せ場を作れないままに0−2で完敗して、ついに3連敗となったマリノスを取り巻く状況は決してポジティブなものではない。サポーターからも、指揮官の目指すサッカーに懐疑的な声も聞こえ始めた。

 ちなみに、ロアでチームの一大改革をコンプリートしたポステコグルーは、チームを「Aリーグ最強」へと鍛え上げ、結果を以て自身の国内最有力監督としての評価を固めた。そして、国内有数のビッククラブ、メルボルン・ビクトリーの監督を経て、自国の代表監督まで駆け上がった。その代表でもチームを2度のワールドカップに導き、アジア王者のタイトルも手中に収めた手腕があるからこそ、彼は今、横浜にいる。

 かつて、ブリスベン・ロアや豪州代表のサポーターは、頻繁に「In Ange, We Trust」のメッセージを掲げた。「アンジこそを信じる」、そんな強い思いをマリノスのサポーター、選手やクラブ幹部が持ち続けられれば、少し時間は掛かっても彼がこの変革をまっとうする可能性は充分にある。ただ、降格があるJリーグは、代表やAリーグとは状況が大いに異なるのも事実だから悩ましいところだ。

 本田圭佑という日本のレジェンドが豪州進出を決めたこのタイミングで、Aリーグへの関心は黙っていても上がる。それに併せて、Aリーグの歴史を語るには外せない2人の「大物」が、Jの舞台で新しいチャレンジを続けていることを少しでも多くの日本のファンに知ってもらいたい。

 そのためには、ポスタコグルーには「勝利」、ベリシャには「ゴール」というそれぞれの存在証明が必要になる。まあ、そんなことは、2人とも言われずとも分かっているに違いない。とにかく次節以降も見守るしかない。

(取材・文:植松久隆)

【了】

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