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Jリーグ 5年前

湘南のホープたちが勝ち取った初戴冠と制裁金の25倍。「ベストメンバー規定」を乗り越えた“最強チーム”に

text by 藤江直人 photo by Getty Images

初戴冠も通過点。急成長を続けるホープたち

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杉岡大暉【写真:Getty Images】

 ルーキーイヤーだった昨シーズンのJ2開幕戦からレギュラーをゲット。3バックの左ストッパーおよび左ウイングバックのレギュラーを射止めて37試合、フィールドプレーヤーではバイアに次ぐ3251分間のプレー時間を記録した杉岡を1年ぶりに見て「普段はそうでもないけど、ピッチ内では変わった」と思わずにはいられなかった。

 一方の杉岡は「このタイミングか、とは思いました」と金子と再びチームメイトになったことに驚きながらも、高校時代からもちあわせていたダイナミックなプレーがより磨かれている過程を間近で見ている。

「もともと能力は高かったし、絶対にプロになる選手だと思っていた。たまたまタイミングが早まっただけですけど、チームメイトながら言い選手だなと、あらためて思っています」

 最近になって曹監督は、あるテレビ番組で見聞きした「出る杭は打たれるけど、出すぎた杭は打たれない」という言葉にインスパイアされ、選手たちに「出すぎた杭になれ」と檄を飛ばしている。

 ルヴァンカップ決勝を戦った若手で言えば、豪快な決勝弾を叩き込み、MVPを獲得した杉岡はがむしゃらに仕掛ける姿勢。坂はポジショニングを向上させるための機動力。そして、金子はどんな状況でもボールを力強く前へ運ぶ推進力となる。

 チームメイトたちと切磋琢磨し、お互いに刺激を受けながら成長を続ける過程で、チーム名称が湘南になった2000年以降では初めてとなるタイトルを勝ち取った。

「クラブ全体で手にした勝利だと、あらためて思いました。いろいろな人がこの日を待ちわびていたと思うと、この場にいられることをすごく幸せに感じます」

 優勝決定直後にはベンチ前のピッチに突っ伏して号泣。公式会見では感無量の表情を浮かべた曹監督は席を立つときには、J1残留をかけた残り5試合の戦いへ気持ちを切り替えている。

 厳しくも涙もろく、優しさをも同居させる熱血漢に惹かれ、ベルマーレの一員になったホープたちは、制裁金の25倍に当たる1億5000万円をもたらした初戴冠を通過点ととらえながら、成長へのスピードを加速させていく。

(取材・文:藤江直人)

【了】

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【著者プロフィール】
曺貴裁(チョウ キジェ)
1969年1月16日、京都市生まれ。京都府立洛北高校、早稲田大学を経て、91年日立製作所本社サッカー部(のちの柏レイソル)、浦和レッズ、ヴィッセル神戸でプレー。Jリーグ通算70試合に出場。12年に湘南ベルマーレ監督に就任。チームを3度のJ1昇格、2度のJ2優勝に導き、就任7季目となる18年は監督としては通算4年目となるJ1での戦いに挑む。

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