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日本代表 5年前

日本代表に足りない「対応力」。アジアカップ決勝で完敗…ベンチから見えていたその先の景色

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「対応力」とは何だったのか

日本代表
日本代表は頂点にたどり着けず。この笑顔なき表彰台の先に何を見据えるのか【写真:Getty Images】

 一方で、もし日本が「対応力」を示せていれば、カタールの方が先に手札がなくなっていたかもしれない。彼らは実質1日しかトレーニングの時間を取れていなかったし、日本戦でも2点を取った後は5-4-1にして撤退する道を選んだ。おそらくあれ以上に何か秘策を隠し持っていたわけではないはずだ。

「対応力」とは抽象的で難しい言葉だ。森保監督は多くを語らず、意味のあるフレーズの一人歩きを嫌うため、表面的なところを越えた先まで読み取るのは困難を極める。もちろん選手たちには、我々メディアに語るのとは全く質の違う、細かな部分まで緻密に準備して、計算づくで何かを伝えているだろう。

 試合後、表彰式を待つまでの間に乾は森保監督と2人でずっと話し込んでいた。スペインで「監督との距離は縮めてもいいんだ」と気づいたベテランウィンガーは、「チームの今後のための話し合い」として思いの丈を指揮官に伝えた。

「前半のああいうところでベンチメンバーが、俺も含め、あのプレッシャーのかけ方ではダメって気づいていたのに言わなかったのは、自分たちのせいだって言いましたし、監督も同じことを、『自分のせいだ』って言われていたので。ただ、それは今後同じことがあれば、どっちもできることなので、今経験できたのはお互いに良かったと思いますし、こういう風にして、どんどん成長していくんじゃないかなって思いますけどね」

 乾は追加招集された立場ではあったが、なかなか試合に出られない悔しさと葛藤しつつ、主体的にチームの成長を追い求めるアクションを今大会の合宿中に何度か起こしていた。森保監督は選手からの積極的な働きかけも促していて、時に筆者のような記者にも意見を求めてくる。厳しさだけでなく、寛容さも持ち合わせるからこそ、成長のためのどんな要素も見逃すまいとする。

 今大会で言えば、前半と後半でがらりと戦い方を変えることはできた。グループリーグ初戦のトルクメニスタン戦が象徴的だが、ある意味ではこれも「対応力」だ。しかし、もう一段階が遠かった。サッカーには流れがあり、全く同じでない人間が11人いて、何かを流れと逆方向に変えながら全員同時に同じビジョンを描かせるというのは極めて難しい。今のところ強い相手に勝つために必要な能力ということだけがわかっているところまでで、「対応力」の真理にはたどり着けていない。

 だが、挑戦のしがいはある。日本代表が負けたのは事実で、これまでの取り組みを全て擁護するわけではない。だが、未来を担う若い選手も、経験豊富なベテラン選手も、決勝で敗れた悔しさを味わい、全員が何かしら掴み取ったはず。このアジアカップでの経験を糧にして何をどう変え、あるいは維持しながら、今後どのような成長曲線を描いていくのか。それも「対応力」なのかもしれない。もう2度と同じことを繰り返さないために、大きな課題を突きつけられた。

(取材・文:舩木渉【UAE】)

【了】

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