Jリーグは国が援助せよ! 「スポーツ庁は一体、何をやっとんのや?」。トリニータ元社長が語るコロナウイルスの危機【インタビュー前編】

大分トリニータの元社長で、第二代観光庁長官、現在は大阪観光局理事長の任にある溝畑宏は怒っていた。新型コロナウイルスの影響により依然、リーグ再開のメドが立たないJリーグを筆頭としたプロスポーツ産業に、なぜ政府、スポーツ庁は手を差し伸べようとしないのか——。責任企業がない中小Jリーグクラブの存続が危ぶまれる切迫した状況の中、トリニータ時代から比類なき突破力を見せていた溝畑はすでに動いていた。(本インタビューは当初、緊急事態宣言が出される前日の4月6日に行われ、その後、メールによる質問等でアップデートしている)【取材・文:木村元彦】

2020年04月23日(Thu)10時00分配信

text by 木村元彦 photo Editorial Staff
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Jリーグ、プロ野球がこんなに困っているのにスポーツ庁は何の動きもない

溝畑宏
【写真:編集部】

溝畑「ちょっと外を見ただけでも今、大阪の飲食事業者の人たちが、この新型コロナウイルスでいかに困っているのがわかるじゃないですか。内部留保のあるお店なんかほとんどなくて、今日の売り上げを明日の仕入れに充てているところばかりです。音楽や演劇、イベント会社も相当困窮しています。このままの状況が続くと、大半の中小企業が倒産するかもしれない中で、すぐにでも必要となるのが、現金給付だと思います。

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調べてみると欧米諸国はウイルス感染拡大防止のため、国が休業など自粛を要請するとともにしっかり補償しています。カナダは30%以上収入が減少した事業主は3月15日から遡って、3カ月分の賃金の75%の補助金を受け取ることができます。

アメリカは最大200万ドル(約2億1500万円)の低金利ローンを新型コロナウイルスの影響を受けた州から受けることができますし、被害の大きいニューヨーク市では従業員100人以下の事業者が無利子ローンを最大7万5000ドル(約800万円)まで受け取ることが可能です。

イギリスは賃金支援で所得の8割に当たる額を1カ月につき最大2500ポンド(約33万6000円)まで支給します。フランスは従業員の70%の総賃金に相当する補償が受けられますし、ドイツは10人以下の従業員の事業者は3カ月間、最大1万5000ユーロ(約175万円)の支払いに申し込むことができます。

対してこの国はスピード、十分な対応という意味でかなり遅れていると思います。実は先週東京に足を運んで中小企業の皆様の支援に向けて関係省庁や国会議員に働きかけてきました」

——外食産業、ホテル宿泊、エンターテインメントビジネスが大きなダメージを受けている中、Jリーグもまた開幕の見通しが立っていません。

溝畑「そうなんです。私も気がついたんですが、こういう事態になっているのにスポーツに関しては国の動きが何もないじゃないですか。Jリーグ、プロ野球がこんなに困っているのにスポーツ庁は何の動きもない。一体、何をやっとんのや? と思ったわけですよ。私はオリックス・バファローズの社長にも、これだけ試合が延期、中止となって経営が悪化しているわけだから、国の緊急対策で動いてもらってもいいんじゃないですかと伝えました。

もちろんJリーグの方にも後輩の木村(正明)専務理事に話をしました。これは百年に一度の大きな危機です。Jクラブの大変さに関しては僕も(大分)トリニータ時代、SARS(重症急性呼吸器症候群)やリーマンショックを経験しているので資金繰りなど経営状況の悪化が想像がつくんですよ。プロスポーツのビジネスは災害、疫病などがあると一気に経営に跳ね返ってきます」

——SARSの時は、現在のような世界的なパンデミックとは異なりますが、どのような影響を受けましたか。

溝畑「あの時の資金繰りは大変でしたから、よく覚えていますよ。感染症の病気については、アウェーのサポーターが来ないし、ホームの人たちも外に出ないので観客動員には大きな打撃になります。それ以上に今回はリーグ戦が行われていないわけですから、深刻です。

親会社があるところは、それでもまだ多少は体力があるかと思いますが、例えばJ1の湘南、大分、札幌、それからJ2、J3のほとんどのチームは責任企業がないから窮していますよ。この状態が長期化すると入場料が入らないし、そもそもチームを支えてくれている地方の中小企業も経営難になってきてスポンサー料も払えなくなると思うんです」

Jリーグはチェアマンも自力で頑張ってきてはりますよ、だけどもう限界です

——やはり、早急にJリーグも国が援助に乗り出すべきだという考えですか。

溝畑「そうです。シーズンが開幕できない今の状態がもうあと2カ月続いたら、各クラブが崩れだします。そうなると、地域に密着しているからこそ、地方経済への影響は避けられません。だからもう国が何らかの支援を今まさにすべきです。

ヨーロッパを見渡してみてもアスリートや芸術家、シェフを国が支えているわけですよ。ここはスポーツ庁が、もっと声を上げるべきところだと僕は思います。あの役所はそのためにできたはずですよ。スポーツ全体のマネジメントをしなくてはいけないのに、このままでは丸投げのままじゃないですか。Jリーグやプロ野球などを束ねてヒアリングして助けるべきなんですよ」

——よく言われていますが、政府が発令する自粛は補償とセットにしないといけない。

溝畑「僕もそう思います。国も生活に困っている世帯に30万円(編注:政府は10万円の一律給付への変更を発表)、事業継続に困っている中小企業、小規模事業者へ上限200万円を、個人事業者に上限100万円を給付する制度を用意していますが、これでは1カ月、2カ月のつなぎにしかなりません。

調べてみたら、イギリス政府なんかは、従業員の給料の80%を当面3カ月補償でしょ。安心して備えられますよ。Jリーグは先が見えないだけに結局、しわ寄せは選手やスタッフにくるんです。私はこれ、ものすごく心配しています」

——専門家の意見を聞き込んだ村井チェアマンが、無期限延期を宣言しました。ジャパニーズオンリー事件の時の裁定スピードの早さもそうでしたが、歴代チェアマンの中でも危機管理に関しては何が重要かをわかっていると思いましたね。

溝畑「村井さんはピカイチやと思いますよ。僕は今、Jの存亡の危機やと見ているんですよ、
ダゾーンのお金は入ってくるかもしれないけど、それだけでは、クラブの経営は無理。Jクラブはスポンサー料や入場料はなくても選手の契約や人件費は契約してしまっているから、払わなくてはいけない。

素晴らしいことにコンサドーレの選手たちが声を上げて、自分たちで1憶拠出する言うてましたけど、それでもやっぱり35億のうちの1億ですよ。今こそ中長期的に見てJリーグをどうやって維持、再編していくかストーリーを描くべきです。

コロナウイルスにより経営が厳しい状況であるならば、『公』の出番です。Jリーグを守るために、税金を投入しても十分国民的支持は得られると思うんです。文化庁、スポーツ庁という役所を作ったけど、彼らはまさに文化、スポーツを支えるアーティストやアスリートの生活を守る、バックアップする仕組みがまったくできていないですよ。Jリーグはチェアマンも自力で頑張ってきてはりますよ、だけどもう限界です。早急に国が助けないと」

これではホントにこの国崩壊するなと思えるんです

——スピードで言えば、ニュージーランドは事業者が申請して2日後に社員の給料が入っていたと聞きました。ところが日本政府から最初に出たのは和牛券、そのあとに復興後の旅行券。観光庁長官の経験からわかると思うんですけど、旅行するにしても余裕とインフラがないと後回しじゃないですか。

溝畑「私が在任中にあった3・11の東日本大震災の時もそうでしたが、観光業の立場というのは要するに一般の人たちが安心して動き出す時が出番なんです。僕は復旧に向けてのステージを今2つに分けています。最初のステージである今は、感染拡大防止で三密を避けるために人の集会とか移動を抑えているわけです。

この段階で僕らがやらなくちゃいけないのは、サービス業、エンタメ業の担い手を守ること、つまり雇用をしっかりと守ってあげることです。会社というよりはいわゆる担い手ですわ。食にせよ、エンタメにせよ、スポーツにせよ、こういう文化の担い手たちが、いよいよ社会が動き出すよという時に、待っていましたと十分に動けるように守っておくのが僕らのミッションなんですよ。そして次のステージになったら、その環境を後押しすることです。

今、僕らが飲食やエンターテインメントの支援に回っているのは、彼らを守らないと、緊急事態宣言が解けて、いざ再開の狼煙を上げた時にはその広義な意味での観光業の担い手たちが、疲弊して戦力にならなかったり、廃業されているという事態は絶対に避けないといけないからなのです」

——先日、大阪観光局の向かいにある洋食屋(ロッヂ)で食事をする機会がありましたが、あのようなレストランや和食屋が、地道な独自の経営努力で日本のインバウンドでも大きな貢献を果たしてきてくれたことを考えると、今こそ守らないといけないというのはありますね。

溝畑「僕自身も一つ勉強になったのは、観光業という分野の中でこの国を支えている人たちはホントに誰だったのかと考えた時に、食やファッションやスポーツやエンターテインメントの土台や裏方の部分で携わってきた市井の方々なんですよ。しかし、この人たちに対する支援の仕組みが非常に脆弱で、これではホントにこの国崩壊するなと思えるんです」

——そしてJリーグですね。浦和レッズがJ2に降格した時に、あのサポーターの大移動でJ2のクラブのある地方都市がどれだけ潤ったか。

溝畑「そしてJリーグもおそらく来年以降もっとしんどくなってきます。選手の雇用を支える仕組みを早く作らないと、一度崩れてしまったらもう一度作り直すのにものすごい時間がかかります。プロスポーツというのは、国民の素晴らしい資源なんだけれど、今まで日本国内においては優先度が低かったんです。でも、ここでプライオリティを高める、それくらいの成熟度はあると思うんですよ。各Jクラブの声を聞いて早く束ねることと、まずは緊急性があるのならば、借り入れだけじゃなくて現金をぶち込んでしっかりと安定させること。重要なのは、まさにスピード感だと思いますわ」

(取材・文:木村元彦)

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<書籍概要>
 とある劇作家はテレビのインタビューで「演劇は観客がいて初めて成り立つ芸術。スポーツイベントのように無観客で成り立つわけではない」と言った。この発言が演劇とスポーツの分断を生み、SNS上でも演劇VSスポーツの醜い争いが始まった。が、この発言の意図を冷静に分析すれば、「スポーツはフレキシビリティが高い」と敬っているようにも聞こえる。

 例えばヴィッセル神戸はいち早くホームゲームでのチャントなど一切の応援を禁止し、Jリーグ開幕戦のノエビアスタジアム神戸では手拍子だけが鳴り響いた。歌声、鳴り物がなくても興行として成立していたことは言うまでもない。もちろん、これが無観客となれば手拍子すら起こらず、終始“サイレントフットボール”が展開されることになるのだが……。

 しかし、それでもスタジアムが我々の劇場であることには何ら変わりはない。河川敷の土のグラウンドで繰り広げられる名もなき試合も“誰かの劇場”として成立するのがスポーツ、フットボールの普遍性である。我々は無観客劇場に足を踏み入れる覚悟はできている。

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▽溝畑宏(みぞはた・ひろし)

1960年、京都府出身。東京大学法学部卒。自治省(現・総務省)から大分県庁に出向し、2004年に大分トリニータの代表取締役に就任。2008年にはクラブ初タイトルとなるナビスコカップ優勝を果たした。2009年にクラブ経営危機の責任をとって辞任。現在は大阪観光局理事長。
参考
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825289

【了】

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