王者マリノス崩壊? 失点激増の要因とは。連敗脱出のために求められる原点回帰

明治安田生命J1リーグ第5節が18日に行われ、横浜F・マリノスは鹿島アントラーズに2-4で敗れた。昨季王者はここ3試合で9失点を喫し、鹿島にシーズン初勝利を献上。守備が崩壊してしまった要因とは。そして、改善と復調の見込みはあるのだろうか。(取材・文:舩木渉)

2020年07月21日(Tue)13時04分配信

text by 舩木渉 photo Shinya Tanaka
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鹿島も突いてきた「弱点」

アンジェ・ポステコグルー
【写真:田中伸弥】

 昨季王者の横浜F・マリノスが苦しんでいる。リーグ戦再開から4試合でわずかに1勝。直近3試合で9失点を喫した。

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 18日に行われた明治安田生命J1リーグ第5節では鹿島アントラーズに2-4で敗れた。しかも、4連敗していた相手に今季初勝利をプレゼントしてしまう形に。優勝した昨季は年間38失点と守備も堅かったマリノスは、いったいどうしてしまったのか。

 試合後の記者会見に現れたアンジェ・ポステコグルー監督は、頭を抱えながら椅子に座り、大きく息を吐いた。怒りが湧き上がってきているのは明らかで、「自分たちのミスから失点してしまったことが敗因」「ミスが多いから失点してしまう。そういうところをなくさないといけない」と繰り返し嘆いた。

 対戦相手の研究や対策が進み、2節前の湘南ベルマーレ戦からは同じような失点パターンも続いている。斜め方向のサイドチェンジでディフェンスラインの背後に大きく展開され、マリノスの布陣がスライドして対応しようとすると、さらにサイドチェンジ。手数をかけないチームは、パス3本ほどでシュートまで持ち込んでくる。

 しかも上背のないサイドバックがいる、遠いサイドへのハイクロスが狙い目だ。鹿島も先制点の場面で、サイドをドリブルで突破したエヴェラウドのクロスが懸命にジャンプしたティーラトンの頭を越え、その奥に走り込んでいた上田綺世のシュートにつながった。

 鹿島を率いるザーゴ監督は「どんな強い相手でも弱点がある。目立った弱点はディフェンスラインが非常に高く、その背後に広大なスペースがあること。それは必然的に使わなければいけないし、狙わなければいけない。それは練習してきまたし、説明もし、映像も見せた。しっかりと練習で準備したものを試合で出した選手たちを称えたい。狙いどおりの形が作れたと思う」と語った。マリノス対策を講じてくるチームの戦略は、ディフェンスラインの背後を狙うこと。どこもだいたい同じだ。

不振を象徴? 気になるスタッツが…

 なぜ同じところを狙われ、改善できない状況が続くのか。マリノスのMF扇原貴宏は「奪われたらすぐ逆サイドに蹴ってきたり、ディフェンスラインの裏に一発でひっくり返してくるようなボールが増えている。(ボールの)失い方が悪いからそうなる」と分析する。

「失い方が悪かったりすればどのチームでもピンチになるし、アタッキングサードまで確実にビルドアップできれば(ピンチは)減ると思います。集中力を切らさないようにだったり、組織としてコミュニケーションはもっともっと取らなければいけないと感じています。

今日の試合で言えば、球際でファウルをしてでも潰さないといけないシーンがありました。攻守が切り替わったときの反応が悪いとも感じているので、リアクションや出足や集中力にもっとこだわってやっていきたいです」

 扇原の指摘は的を射ているのではないかと思う。攻撃と守備は表裏一体で、どちらかがうまくいっていなければ、もう一方もうまくいかない。攻守の両輪をスムーズに回転させられていた昨季終盤の絶好調だった頃と、最近を比べて気になるデータもある。

 Jリーグが公式に発表しているスタッツを参照すると、マリノスは昨季終盤の7連勝のうち5試合でスプリント回数が「200回」を超えており、対戦相手に回数で上回られたのは松本山雅FC戦だけだった。

 一方、今季のリーグ戦再開後4試合のスプリント回数のデータを見ると、「200回」を超えたのは一度だけ。そして、4試合全てで相手にスプリント回数で大きく上回られている。例えば4失点した鹿島戦ではマリノスが「167回」だったのに対し、相手は「206回」を記録した。直前のFC東京戦でもマリノスの「150回」に対し、相手のFC東京は「213回」と大きく差をつけた。

 チーム全体の走行距離はそれほど変わっていないが、交代枠が3人から5人に増えて、後半によりフレッシュな選手が多くなる条件が揃っているにもかかわらず、スプリント回数が大きく減少している。

 断定は難しいが、「守備でプレッシャーをかけきれていない」「自軍ボール保持時に追い越しやポジションチェンジの動きが少ない」「被カウンター時の戻りが間に合っていない」「逆サイドからのクロスに飛び込むような動きが少ない」などスプリントが減った原因はいくつか推測できる。

 これらはいずれもマリノスが強みとして誇ってきたものでもあるだろう。夏場の連戦による疲労やリーグ戦再開から間もないことなども要因として考えられるが、対戦相手がしっかり動けている以上、言い訳にはできない。

4失点目は「個人のミスではない」

扇原貴宏
【写真:田中伸弥】

 実際に試合を見ていても、選手同士の距離感が遠く、ボールを持った選手がパスの受け手となる味方を探してしまう場面がよく見られる。そのせいで判断がワンタッチ、あるいはツータッチ分遅れ、テンポも上がらず、相手に考える隙を与えてしまっているとも考えられる。頻繁にポジションを動かしながら高速でパスをつなぎ続けることで、相手に捕まえどころを与えないサッカーがマリノスの持ち味だったはずだ。

 鹿島戦の67分、中盤でボールを奪われてのカウンターから3失点目が生まれた。一度、2対3という数的不利な状況を作られながら、畠中槙之輔が遠藤康のパスをカットして少し時間的猶予が生まれる。それでも、ボールがゴールネットを揺らすまでに戻ってこられたのは畠中、伊藤槙人のセンターバック2人に、扇原と喜田拓也のセントラルMF2人を加えた4人だけだった。カウンターが始まった時点で両サイドバックはかなり高い位置を取っていたが、ゴールが決まるまでの約10秒間があれば、ペナルティエリア近くまで戻ってくるのは可能ではなかったか。

 さらに82分の4失点目も象徴的だった。1点差に迫って、前がかりになっていた状況ではあったが、伊藤からのパスを受けて顔を上げた畠中の視界に次のパスコースは1つも見えていなかっただろう。ティーラトンも喜田も天野純もかなり遠く、ポジショニングも曖昧でサポートに入れていなかった。結果的に畠中は後ろ向きにボールをコントロールし、安易な横パスを奪われて失点につながった。普段の彼なら起こりえないパスミスのように見えた。

 扇原は「ああいうミスは、シン(畠中)個人のミスではないと思っています。周りのサポートや距離感がどうだったのか見直さなければいけない。負けているからこそいい距離感でやらないといけない。そういうところはで冷静にこだわってやらなければいけないと思います」と4失点目を悔やむ。これこそ今のチームの現状を反映していると言えそうだ。

いかに不振を脱するか

小池龍太
【写真:田中伸弥】

 では、どうすれば改善できるのか。鹿島戦には出場しなかったが、今季新加入のDF小池龍太は次のような考えを語る。

「まず攻撃している時に自分のスペースを空けていることをしっかり頭の中に入れなければいけないと思います。その意識はみんな持っているけれど、やられていることがやっぱり多い。なので、自分のスペースに戻れる距離を確認しつつ攻撃参加することと、何よりは切り替えを早く、間に合わなくてもとりあえず走って、しっかり戻って、最後まで諦めないこと。

そういう軽く見えないようなプレーが相手のミスを誘ったりするし、そういったところで最後まで自分が100%で走りきれるかどうか。そういったところができてくれば自ずとスペースは消えてくると思うし、相手も『対策してきた』というマインドになると思うので、1人ひとりのタスクをもっとしっかりこなさなければいけないと思います」

 根性論のようにも聞こえるが、やはり「走ること」はマリノスの戦術の一部でもある。昨季も走り勝っていれば、試合にも勝っていることが多かった。昨季までアシスタントコーチを務めていたピーター・クラモフスキー(現清水エスパルス監督)が口酸っぱく言っていた「カラダノムキ!(体の向き)」のの重要性を改めて感じる。

 喜田は湘南戦の終盤、きつくなってきた時間帯に「(全員が)パスコースになって! (正しい)ポジションとって! 1人ひとりがサポートして!」と叫んだ。ポステコグルー監督も就任当初から「全員に勇気を持ってパスを受けにきてもらいたい」と言い続けていた。今こそ、この原点に立ち返る時のような気がしている。

 小池は「奪われた後のアクションやどこに進もうとしていたかを大事にしていきたい」と語り、さらに続ける。

「ゴールエリアの近くで奪われることを考えるよりも、しっかりフィニッシュで終わったり、やりきるところ。スルーパスであっても、(味方が)届かないくらいがちょうどいいのかなと思っています。今は『安パイ』というか。難しく考えるよりも1人ひとりがプレーをやりきるところをもっと出しきれればいいかなと思います」

アタッキング・フットボールは失われていない

 鹿島戦の1点目を見れば、マリノスのアタッキング・フットボールの魅力が失われていないことはよくわかる。ティーラトン、エジガル・ジュニオ、マルコス・ジュニオールとつないで、エヴェラウドの背後から飛び出してきた松原健がペナルティエリア手前で斜めのパスを引き出した。

 そして、すぐさまエジガルがサポートに入り、右アウトサイドで待っている仲川輝人に展開。ボールが動いている間にゴール前へ侵入していたマルコスが、仲川からのラストパスを受けてシュートを放った。長短のパスを織り交ぜながらテンポを変え、頻繁に動き直してポジションチェンジを繰り返し、一気にスピードを上げて少ないタッチのパスワークで崩しきる。これこそがアタッキング・フットボールの真骨頂というゴールだった。

 昨季まで「できていたこと」が何もかもできなくなったわけではない。ベースの完成度は高く、選手たちの戦術理解度も高い。ならば、距離感やスピードの感覚を取り戻し、パスワークの精度を上げて、フィニッシュに至る回数を増やせばいい。

 シュートで攻撃を終えられる回数を増やせば、リスタートのゴールキックやコーナーキックも増え、カウンターで即座にピンチを招く回数は減る。スプリント回数を少し増やし、ポジションチェンジやプレッシングの強度を上げられれば、相手は消耗し、判断やプレーの精度を下げることもできる。どんどん仕掛ければ、ゴール近くでファウルをもらう回数も増えるかもしれない。

 相手守備ブロックの外側でパスを回せてボール支配率は高くなっても、その攻撃に怖さはない。果敢なペナルティエリアへの侵入も昨季のマリノスの強みの1つで、そこでのPK奪取も勝利に直結していた。

 今のところなかなか結果は出ていないが、全てがうまくいっていないわけでもない。「泥沼」というような状況でもないだろう。「自分たちのサッカー」を続けながら対策を上回っていくには、今こそ原点に立ち返るべきだ。過密日程に加えて暑さや湿度もあってきついのは百も承知。だが楽をして勝つことはできないし、避けられない道もある。走れ、マリノス。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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