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中島翔哉vs酒井宏樹、日本人対決の結末は? 日本代表戦に向けて弾みをつけたのは…【欧州CL】

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第3節が現地3日に行われ、ポルトがマルセイユを3-0で破った。日本人選手が3人同時にピッチに立つ可能性もあった一戦では、いったい何が起こったのだろうか。そして中島翔哉、酒井宏樹、長友佑都はどんな状況に置かれているのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ヴィラス・ボアス監督の嘆き節

アンドレ・ヴィラス・ボアス
【写真:Getty Images】

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)というのは、人格をも歪めてしまうのだろうか。温厚そうなイメージのあった彼が、まさかこんなにも言葉遣いが悪くなるのか…と驚いた。

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 マルセイユを率いるアンドレ・ヴィラス・ボアス監督は、現地3日に行われたポルトとの試合を0-3という大敗で終えて落胆を隠せないようだった。記者会見では放送禁止用語を連発しながら、チームの低調なパフォーマンスを非難した。

「弱い。こんなクソみたいなことをするためにチャンピオンズリーグいるのか? チャンピオンズリーグで戦うには最低限のクオリティがなければダメだ。我々はここにいる。だが、本当にクソみたいなことをしている」

 かつてポルトを率いて“ネクスト・モウリーニョ”と持て囃されたヴィラス・ボアスと、現職のセルジオ・コンセイソン監督によるポルトガル人指揮官対決には地元メディアも注目していた。

 さらにポルトの中島翔哉とマルセイユでプレーする酒井宏樹や長友佑都による直接対決がCLの舞台で見られるのではないか。あわよくば3人同時にピッチに立つ可能性も…と日本人対決の期待も高まる試合だった。

 ところが始まってみると、ヴィラス・ボアス監督の言葉通りマルセイユのパフォーマンスが極めて悪く、中島が途中出場する頃にはすでにポルトの勝利がほぼ確実な情勢になっていた。

 スタッツだけではマルセイユの低調ぶりはわかりづらい。ボール支配率「61%」は相手を上回っているし、パスの本数も351対530でマルセイユの方が多く、パス成功率「83%」でもポルトより良い数字を残している。シュート数の「7本」も相手より多い。

 だが、マルセイユの枠内シュート数は「ゼロ」だった。一方、ポルトは「6本」しかシュートを放っていないものの、そのうち「4本」を枠内に飛ばして3つのゴールを奪っている。ビッグチャンスの数もポルトの「5」に対してマルセイユは「1」しかなく、ほぼ完璧に抑え込まれてしまった。

「自滅だよ。マルセイユの監督として後悔している。自分たちのミスが多すぎて、相手にみすみすゴールを与えてしまった。オリンピアコス戦やマンチェスター・シティ戦でも同じだった。経験によって変わってくれることを願っているがね。

相手は我々よりも力強く、上手くやっていた。我々も少しコントロールできていたが、それだけでは不十分だった。ポルトは我々よりもゴールへの欲求が強く、セカンドボールを回収し、より激しく、より攻撃的で、我々は同じレベルに立てなかった。高いコストを支払うことになってしまった」

マルセイユはCLで12連敗

酒井宏樹
【写真:Getty Images】

 マルセイユは今大会開幕から3連敗で、グループ最下位に沈んでいる。7年ぶりのCL参戦だったが、これで2011/12シーズンのラウンド16・2ndレグから本大会12連敗という不名誉な記録も作ってしまった。

 冒頭で紹介した言葉は、その「12連敗」という記録について問われたヴィラス・ボアス監督が発したものだった。「この記録に何の意味がある? 今の我々に何ができるのか? 残念ではあるが、止められるかは自分たちしだいだ。ここまで堕ちたのがマルセイユ。これが我々の旅路なんだ」というコメントに続くのが「弱い」以下の嘆きの言葉である。

 ポルト戦はいったい何が歯車を狂わせたのか。開始4分でムサ・マレガにゴールを割られ、10分には大黒柱のディミトリ・パイェがまさかのPK失敗。このあたりから不穏な空気が漂い始め、ミスの多さも相まってどんどん崩れていった。

 28分にはポルトにPKを与えてしまい、セルジオ・オリヴェイラに決められて2失点目。マルセイユは後半に交代カードを切って攻撃的な選手を投入するも、69分にルイス・ディアスのゴラッソが決まって万事休す。中島がタッチラインをまたいだ75分には、すでに3点差がついていた。

 マルセイユがボール支配率で上回っていたのは、単にポルトとのスタイルの違いでしかない。ボールを奪った後、ロングボールやドリブルによる個の突破力を生かして縦に速く攻めるのがポルト。一方のマルセイユはポゼッション型で、自陣からショートパスで攻撃を組み立てるチームだ。

無双状態だったメキシコ人

中島翔哉
【写真:Getty Images】

 ところがポルト戦では選手間の距離が遠く、敵陣に入ったところでパスミスを連発。パス成功率は83%だったので、単純計算なら5本のうち4本成功ということになるが、まさしくその数字通りの印象だった。

 相手からボールを奪って3本、4本とパスをつなぎ、ハーフウェーラインを超えたところの5本目で失敗してしまう。もう少し運べたとしても、崩しの局面で1人、2人と絡んでも、3人目以降の連動につながらない。そんなシーンは数多くあった。

 そして、ポルトは奪い返したボールを素早く展開してキーマンとなる前線の選手に預ける。特にメキシコ代表のヘスス・コロナはマルセイユの選手たちも、ほとんどファウルで止めるしかないような無双状態だった。

 序盤にマレガのゴールをアシストしたゴール前での突破も、ルイス・ディアスの3点目をお膳立てしたヒールパスも、コロナのプレーである。中でも相手ディフェンス3人を釘づけにした3点目のきっかけとなったドリブル、そこからの意表を突くヒールパスで披露したスキルとアイディアは圧巻である。近々、あのイマジネーションと献身を兼ね備えたコロナが日本代表と対峙すると考えると脅威でしかない。

 マルセイユ戦に臨むにあたり、ポルトとてチーム状態がいいわけではなかった。直近のリーグ戦ではパソス・デ・フェレイラに2-3で敗れており、負け方も非常に悪かったのだ。とにかくボールを前に運べず、VARの介入によって取り消しに至ったものも含め、最低でも5失点はしていてもおかしくない展開だった。

 そこから短期間でチームを立て直し、マルセイユ戦では相手の低調ぶりも手伝って、自信を取り戻せたはずだ。キャプテンマークを巻いたセルジオ・オリヴェイラは「より組織だったチームになることを求めていた。そうなればゴールを決められることはわかっていた」と、CLでの勝利から得た手応えについて語った。

 あまりにも対照的な結末となった一戦は、グループCの今後にいかなる影響をもたらすだろうか。ポルトは2度のアウェイ遠征と、ホームでのマンチェスター・シティ戦が控えている。マルセイユも「クソだった」と嘆くままでは終われまい。

中島、酒井、長友…日本人選手たちの現在地

長友佑都
【写真:Getty Images】

 さて、この試合に関連する日本人選手たちのパフォーマンスについても見ていきたい。ポルトの中島に関しては出場時に勝敗がほぼ決していて、残り15分間で見せ場はほとんどなかった。それでもチーム内での序列が上がってきているのは間違いない。

 直近のリーグ戦とCLの前節オリンピアコス戦はベンチスタートだったが、セルジオ・コンセイソン監督が最初に交代カードを切るタイミングで送り出されたのは2試合とも中島だった。

 なかなか先発出場の機会こそないが、中島の起用法からは、ブラジル代表歴を持つ新戦力のフェリペ・アンデルソンに対してよりも厚い信頼が感じられる。加入2年目の背番号10は、守備面での切り替えの早さや寄せの激しさが著しく向上し、ポジショニングも改善傾向にあって、ボールを持った時のキープ力や突破力なども効果的に発揮できている。

 今のところポルトの2列目ではコロナとブラジル人MFオターヴィオが主戦となり、ルイス・ディアスと中島がともに高い汎用性を発揮して3番手と4番手を争っている。いずれの選手もサイドも中央もこなせるため、試合や対戦相手との噛み合わせによって起用法が変わる。

 コロナは右サイドバックも務めるし、オターヴィオは3列目でもプレー可能。ルイス・ディアスがマルセイユ戦のように2トップの一角に入るオプションもある。中島もサイドやトップ下など試合やシステムごとに変わる役割を柔軟にこなせている印象だ。

 マルセイユで心配なのは長友の立場だ。今回のポルトガル遠征は招集メンバーから漏れ、ベンチにも入ることができなかった。ポルト戦ではあまり持ち味を発揮できなかったとはいえ、酒井が盤石な地位を築く一方で、公式戦5試合連続で出番なしに終わった34歳のベテランが苦境に立たされている。

 CLのグループステージは3試合を終えて折り返し地点に到達した。ポルトは2勝1敗でグループCの2位につける。マルセイユは全敗で最下位から巻き返しを狙う。両者の2度目の対戦はマルセイユのホーム開催予定で組まれている。次回こそ、3人の日本人選手が揃ってピッチに立って輝くことを期待したい。

(文:舩木渉)

【了】

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