東京ヴェルディの15歳、橋本陸斗とはどんな選手か? バングラデシュとのハーフ、超逸材が名門復活への旗頭となるか【コラム】

明治安田生命J2リーグが28日に開幕し、東京ヴェルディは3-0で愛媛FCに快勝した。この試合の終盤、ヴェルディは15歳の橋本陸斗を起用。Jリーグ史上3番目の若さで公式戦デビューを飾ることとなった。アカデミーが輩出した逸材は低迷する名門を復活に導く旗手となるのだろうか。(文:舩木渉)

2021年03月01日(Mon)11時35分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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史上3番目の若さでJリーグデビュー

橋本陸斗
【写真:Getty Images】

 緑の“心臓”は育成にあり、なのだろうか。

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 東京ヴェルディは2020年のJリーグ最優秀育成クラブ賞を受賞した。同賞が設けられた2009年以降、3度受賞は単独最多。数々の名選手を輩出してきたアカデミーへの評価は依然として高い。

 2020年は藤田譲瑠チマ、石浦大雅、馬場晴也、松橋優安、阿野真拓の5選手が東京ヴェルディユースからトップチームに昇格。藤田はルーキーながらJ2リーグ戦41試合に出場し、今季は徳島ヴォルティスへ移籍してJ1の舞台に立っている。

 今季のトップチームには11人のアカデミー出身者が在籍し、スカッド全体の3分の1以上を占める。2月28日に行われた2021シーズン開幕戦の愛媛FC戦ではうち3人が先発出場し、試合終了時にはフィールドプレーヤーの半分にあたる5人がアカデミー出身選手になっていた。

 オフには藤田が徳島に引き抜かれ、生え抜きの井上潮音がヴィッセル神戸へ移籍。昨季途中にジル・ヴィセンテへ旅立った藤本寛也は、ポルトガル1部リーグでレギュラーの座を手中に収めつつある。

 他にも畠中槙之輔や渡辺皓太は横浜F・マリノスの一員としてJ1優勝を経験。日本代表にも中島翔哉や小林祐希といったヴェルディ出身者が名を連ねる。近年だけでも実績を挙げればキリがないほどの育成の名門だ。

 今季のJ2開幕戦ではヴェルディ・アカデミーの最新作とも言える超逸材がトップチームデビューを飾った。まだ中学3年生、15歳のMF橋本陸斗である。

 同選手は2005年4月2日に、バングラデシュ人の父と日本人の母の間に生まれた。ジュニア時代からヴェルディに在籍し、昨年中学3年生ながら異例の飛び級でユースに昇格。今年2月26日にトップチームの公式戦に出場可能な2種登録が認められ、2日後にはJリーグデビューを果たした。

 15歳10ヶ月26日でのデビューは、久保建英(15歳5ヶ月1日、現ヘタフェ)と森本貴幸(15歳10ヶ月6日、現スポルティボ・ルケーニョ)に次ぐリーグ史上3番目の若さ。J2に限って言えば、菊池大介(現栃木SC)が湘南ベルマーレで打ち立てた16歳2ヶ月25日という記録を抜いての最年少デビューになった。

「もう感動。とにかく感動しました」

 試合後、Jリーグデビューの感想を聞かれた橋本は初々しい様子で喜びを語った。

いきなり巡ってきた大チャンス

 ヴェルディが3点リードして迎えた79分、佐藤優平に代わって交代出場を告げられのは背番号33を着けた15歳の橋本だった。

 ピッチに立った直後の80分、いきなりビッグチャンスが巡ってきた。右サイドに抜け出した小池純輝からの折り返しに、ゴール前まで詰めていた橋本が滑り込みながら左足で合わせる。しかし、このシュートはうまくボールを捉えることができず、ゴールのわずか左に外れてしまった。

「自分は交代で入ったので、ああいうところ(ゴール前)にスプリントしていこうと思っていたら、運よくすぐにチャンスが来たんです。足を伸ばしてボールには届いたんですけど、左に逸れちゃいました。(松橋)優安くんが後ろにいて、試合が終わった後に『俺、後ろにいたよ』と言われました。すみません!」

 後半アディショナルタイムにも橋本が自らドリブルでカットインし、左足で惜しいミドルシュートを放った場面があった。永井秀樹監督からは試合後に「決めんかい!」と決定機逸をイジられたようだが、すでに3点リードしたいい流れだったのもあって、チーム全体に「何とか橋本にゴールを決めさせたい」という雰囲気があったのは確かだ。

「いつも試合に出させてもらう時、永井さんには『自信をもってやれ。大丈夫だから』と声をかけてもらっています」

 自らもヴェルディのアカデミーで指導経験のある永井監督は、若手の起用に積極的だ。昨季、藤田を辛抱強く使い続けて大きく飛躍させたように、多少経験が不足していたとしても、Jリーグの舞台を踏むにふさわしい実力があると判断すればポテンシャルを信頼してどんどん若い選手を送り出す。

 試合後の記者会見で指揮官は「もちろんあの(80分の)決定機を決めてくれていたら、少しはヴェルディにとってもいいニュースになったんじゃないかと思います」と冗談めかしながら、「期待通りと言いますか、楽しみながら、彼らしい、いいプレーを見せてくれたんじゃないかと思います」と橋本のピッチ上での振る舞いを称えた。

ヴェルディを知り尽くした指導者たちの教え

橋本陸斗
【写真:Zoom会見のスクリーンショット】

 そのうえで永井監督はこう続ける。

「やはり15歳の橋本陸斗という選手がJリーグの舞台でデビューできたのは、我々のジュニアユースで彼を育ててくれた、森勇介と蓮見知弘監督(のおかげ)ですね。この2人には心から感謝したいと思います。彼らが情熱を持って磨き上げてくれたからこそ、今の橋本があるわけですから」

 東京ヴェルディジュニアユースで監督を務める蓮見と、コーチの森はともに現役時代にヴェルディでのプレー経験がある。

 蓮見は日本サッカーリーグ(JSL)時代から前身の読売クラブでプレーし、1995年までヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の一員だった。森は清水東高校から1999年にヴェルディ川崎でプロになり2000年まで在籍したのち、ベガルタ仙台や川崎フロンターレなどを経て2011年から2014年夏にかけて再びヴェルディのユニフォームを着て戦った。

 蓮見と森にヴェルディのアカデミーでもトップチームでもプレー経験を持つ佐伯直哉も加えた3人が、ジュニアユース時代の橋本を指導し、Jリーグの舞台に導く大きな助けとなった。

「蓮見さんはジュニアユースの頃、自分をサイドバックで使って、とにかくいいところを伸ばそうとしてくれて、縦への突破だったりはサイドバックになってからもできるようになりました。森さんとはすごく仲が良くて、サッカー以外のこともいろいろ話したりしました。佐伯さんはサッカーのこともそうですけど、自分の学業のところだったり、人間的なところをしっかり教えてもらって、人間としてもサッカー選手としても成長できたかなと思います」

 ヴェルディというクラブの文化や歴史を熟知し、プロとしても経験豊富な指導者たちから受けた刺激は何者にも代えがたい財産になっているに違いない。橋本の言葉には支えてくれた恩師たちへの感謝が込められている。

「ジュニアユースではいろいろなポジションをやり、気持ちの部分にもいろいろ変化があったりして、とにかく人間としてもサッカー選手としても成長できたかなと思います。中1の頃に比べて中2の頃はより良くなったし、中2の頃に比べて中3の時はより良くなりました。とにかく成長できた期間だったと思います」

Jリーグデビューはスタート地点

 そして、中学3年生になると飛び級でユースに昇格。プリンスリーグ関東で高校年代の年上の選手たちとしのぎを削り、トップチームの練習などにも参加。U-16日本代表にも継続的に選ばれていた。実力があればどんどん高いレベルへ引き上げていくヴェルディらしい育て方で順調にJリーグまでのぼり詰めた。

「もちろん僕(の力)だけで(Jリーグ)デビューできたわけではないし、2種登録も僕だけでできたわけではないです。小4からここまで、コーチや家族、いろいろな人たちが僕をサポートしてくれて、2種登録やデビュー戦を迎えることができました。ファン・サポーターの方々にも本当に感謝しかないです」

 ジュニア時代はゴール裏でヴェルディを応援していた少年が、成長して味の素スタジアムのピッチに選手として立つ。応援してきたファン・サポーターにとっても、愛媛戦で橋本の名前が場内にコールされた瞬間は感慨深かったことだろう。

 だが、まだ「デビュー」しただけ。永井監督も「本人にも伝えましたが、まだスタート地点に立っただけなので、ここからさらに成長していってほしいなと思います」と戒める。

 橋本も年上の選手たちと日々を過ごすなかで、プロの厳しさや自らの課題を強く認識しているところだ。

「プロの世界はトラップがズレたら体が強くても飛ばされる。練習でもそうです。永井さんからは練習から『相手と当たらないようにボールをしっかり止めろ』と言われているので、そこを意識しています」

見据えるのは「世界」

永井秀樹
【写真:Getty Images】

 身長168cmと小柄ながらすでに体重70kgと肉体的にたくましく、J2でもドリブル突破やスピード、パンチの効いたシュートなどの持ち味を生かせることは示した。今後、出場時間を延ばしていくには守備での強度やプレーの継続性を高めることが必要だ。

「自分はドリブルやスピードが一番の武器というか…まだ武器になっていないですけど、これから磨いていこうと思っているもので、通用させたいと思っているものです。そこはキャンプの時から意識して、とにかくチャレンジしていて、通用する部分もあったり、しない部分もあったり。でも、通用することもあるので、ドリブルだったりスピードをもっと伸ばして、それでチームの勝利に貢献できたら一番いいかなと思います」

 橋本はJリーグデビューを果たしたことで「とにかく練習から必死にやって、またベンチや先発を狙えるような評価をしてもらって、またベンチに入って、先発でも出たい」と、さらなる意欲を燃やしている。次こそはビッグチャンスをゴールに変え、ファン・サポーターに歓喜をもたらしたいところだ。

「世界のサッカー界では僕の年齢でもトップトップでやっている選手ばかりなので、年齢よりはもっと結果を残していかなければいけないと思います」

 2005年生まれの橋本は、おそらくJリーグ屈指だった頃のヴェルディを史実でしか知らない。だが、新世代の旗頭として名門ヴェルディの新たな未来を築く大役を担うだけのポテンシャルは示している。育ててもらったクラブを再び高みに導き、視線を上げた時、先輩の森本や中島らも経験した「世界」の舞台が見えてくるはずだ。

(文:舩木渉)

【了】

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