スペイン人S級指導者が見た横浜F・マリノス。浦和レッズ戦快勝を必然にした戦術的要点、そして今後の課題とは?【分析コラム】

明治安田生命J1リーグ第4節が14日に行われ、横浜F・マリノスは浦和レッズに3-0で快勝した。なぜこれほどの大差がついてしまったのだろうか。今回はダビド・ビジャ氏が日本に設立した「DV7サッカーアカデミー」でヘッドコーチを務め、欧州最高峰の指導者ライセンス「UEFA PRO(日本のS級に相当)」を保有するアレックス・ラレア氏にマリノス視点で試合を分析してもらった。(取材・文:舩木渉、分析:アレックス・ラレア)

2021年03月15日(Mon)14時24分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
Tags: , , , , , , , , , , , ,

なぜマリノスは快勝できたのか?

小池龍太 横浜F・マリノス
【写真:Getty Images】

 一昨年のJリーグチャンピオンである横浜F・マリノスは、14日に行われたJ1第4節で今季初の連勝を飾った。

【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 開始3分で前田大然がマリノスに先制点をもたらすと、26分にも前田が追加点をゲット。いずれも相手陣地内でボールを奪っての速攻からゴールが生まれた。前半の終盤に浦和レッズのペースになった時間があったものの、しのぎきって後半に入った55分に小池龍太が2試合連続ゴールとなる3点目を奪い、勝負あり。最終スコア3-0でマリノスの完勝となった。

 この試合を分析したアレックス・ラレア氏は、「2節前のサンフレッチェ広島戦からの4-3-3と比較すると、特にディフェンス面で向上が見られた試合だったと思います」と語る。

「レッズはビルドアップの局面において、全体のポジショニングがかなり開いた状態でパスをつなごうとしました。一方、マリノスは相手陣地からプレスをかけ、全体が非常に高い位置にいました。そのため、ボールを失った瞬間のレッズは全体がうまく組織化されていない状況でプレーしなければいけなくなっていました。マリノスの前線3トップは非常にスピードがある選手たちなので、空いたスペースをうまく使うことができ、かなり有利にプレーできていたと思います」

 そして、開始3分で生まれた先制点が試合全体の流れを決定づけたと考えている。

「先制点によってチームとしてエネルギーを得られた結果、よりハイパフォーマンスなサッカーができ、マリノスのペースで試合を進められました。試合序盤にゴールを奪うのはチームにとって非常に大きなことで、失点した方はゲームプランを大きく変えざるを得ません」

 自陣からのポゼッションで攻撃を組み立てることを狙っていたレッズに対し、マリノスの用意したゲームプランが見事にハマり、前田の先制点につながった。

「レッズは前半の最後の15分間で2点くらい取れたかもしれませんが、ゴールにはなりませんでした。もしあの時間帯にレッズがゴールを決めていたら、試合としては打ち合いになる可能性もありました。うまくチャンスを生かしたのがマリノスで、そうでなかったのがレッズだったと思います。

マリノスはビルドアップをしっかりやるより、重要だったのはとにかくレッズのビルドアップを壊すことでした。そんなにゴールの近くでボールを奪ったわけではないですが、高い位置でボールを奪ってゴール前まで運べたことが最初の1点につながったと思います」

練習から強調されていたメッセージ

 マリノスが狙っていた「相手のビルドアップの破壊」を意識させるメッセージは、試合前の練習からも感じ取ることができたという。レッズ戦前々日に公開されたマリノスの練習を視察したアレックス氏は、次のように語る。

「7対7のミニゲームをやっていましたよね。そこにレギュラー陣がいたわけではありませんでしたが、コーチたちのメッセージは『ライン間を間延びさせないこと』でした。『常に全体でラインを上げながらプレスをかけよう』という話をしながらトレーニングをしていたので、そのメッセージは確実にレッズ戦につながっていたと思います」

 チーム全体の陣形をコンパクトに保ちながら、攻守の切り替えの瞬間もハードワークを怠らず、できるだけ相手陣地内でプレーしようという姿勢によって生まれた成果は大きかった。昨季までのマリノスが得意としていた戦い方でもありアンジェ・ポステコグルー監督も試合後の記者会見で手応えを語っていた。

「切り替えのところで慌てずにやれたことが、今日の良かったところだと思う。(中略)相手の陣地に入った時にどれだけ落ち着いてできるかが重要だ。ただスピードを上げるだけでなく、緩急をつけてコントロールするところはコントロールする、タイミングを見て前方向にスピードアップしていく、そういう本当にいいところが今日の試合では見られたと思う」

 このコメントを聞いたアレックス氏は、「監督の言っていた通りだと思います」と述べ、次のように続けた。

「何よりも決め手になったのは、マリノスの選手たち全員が相手陣地に入っていて、レッズの選手は自陣の中で組み立てようという状況になっていたことです。それがこの結果(3-0)を導いた大きな要因になると思います。ハーフタイムに戦術ボードでポジションを見ながら修正を図った点もあったでしょうが、どこのポジションがというより、とにかくポジショニングの高さがこの試合のキーファクターだったと思います」

「どこでボールが動いていたか」を見よ

アレックス・ラレア
【写真:Zoomのスクリーンショット】

 試合を通してのボール支配率はマリノスは47%に対し、レッズが53%と上回られていた。しかし、ピッチ上ではマリノスが試合を支配しているように見えたのは、ボールがレッズ陣内で動く時間帯が長かったからだろう。アレックス氏の見解も同様だ。

「数字を見るよりも、どこでボールがよく動いていたかがこの試合を語るうえで大切なポイントです。レッズは自陣内でボールを持っていた時間が長く、逆にマリノスは相手陣地でボールに触っている時間が長かったことが、この試合を物語っているのではないでしょうか」

 アレックス氏が指摘する「どこでボールがよく動いていたか」をピッチ上の選手たちも意識していたことは、右サイドバックとしてレッズ戦に先発していた松原健の証言によっても裏付けられた。

「ポゼッション率の数字を見ると相手の方が上回っていましたけど、相手のボール回す位置を見てもらえれば、ほぼ槙野(智章)選手と岩波(拓也)選手と西川(周作)選手といった後ろの方で、バックパスがすごく多かったというのが試合を振り返った時の印象です。

(中略)開幕戦の川崎フロンターレ戦の時に監督には『自陣でボールを回すのがポゼッションではなく、相手陣地内に入ってからしっかり落ち着いてパスを回すのが俺たちのポゼッションだ』と言われました。そういったところを毎試合意識してきて、レッズ戦では相手陣地内で多くパスを回せたシーンがあったと思っています」

今後に向けた課題は?

 3-0というスコアの影響もあって良かった点が目立ったレッズ戦だが、もちろん今後に向けた課題は存在する。アレックス氏は「14分40秒から」のマリノスのビルドアップの場面を取り上げ、次のように解説する。

「マリノスが後方から組み立てるシーンはほとんどありませんでしたが、14分40秒からの場面は気になりました。マリノスは後方からのビルドアップがまだうまくやれる状況ではないと思います。レッズはマリノスにビルドアップをさせて、そこを狙ったら、実は相手と同じようにミスによってチャンスを作れていたかもしれません。

14分40秒からの場面では、ぜひレッズの右サイドバック(宇賀神友弥)のポジショニングを見てください。レッズのサイドバックが上がってきてマリノスのセントラルMFやセンターバックにまでプレスをかけてきていました。レッズがうまくプレスをかけられていたと見ることもできますが、実際にはそんなにプレスが効いているわけではありません。

前に出てきた宇賀神の背後にもスペースができていました。ただ、マリノスはそこで相手のプレッシングを剥がせず、ボールを前進させられませんでした。現時点ではビルドアップをうまくできず、マリノスは戦術によってそれをうまく隠していたと言えるかもしれません」

 相手陣地内でボールを失った瞬間に激しくプレスをかけ、即時奪回からカウンターでゴールを目指す戦い方は、すでに十分熟成されている。一方、自分たちのプレッシングを破られてカウンターを食らい、失点がかさむのが極端に前がかりになった昨季のマリノスの弱点でもあった。

 今季はポステコグルー監督の言葉を借りれば「ただスピードを上げるだけでなく、緩急をつけてコントロールするところはコントロールする」方法を身につけるべく、プレシーズンから練習に取り組んできた。

 相手陣地内での「コントロール」に関しては向上してきているのかもしれないが、自陣内でも落ち着いてビルドアップし、安定してボールを前進させられるようになれば鬼に金棒だ。レッズ戦のみならず、前節のアビスパ福岡戦でも自陣からのビルドアップ時にパスミスが多く苦しんだため、アレックス氏が指摘した点は今後も改善に努めなければならないだろう。

 マリノスは17日にホームで徳島ヴォルティスと対戦し、3連勝を目指す。修正や改善のための練習時間は限られているが、これまでの4試合で出た成果や課題をいかにピッチ上のパフォーマンス向上に反映させていくか継続的に注目していきたい。

(取材・文:舩木渉、分析:アレックス・ラレア)

【了】

新着記事

↑top