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日本代表 3年前

日本代表キャプテンが選手に植え付けたマインドとは? 「世界基準で戦わないと韓国には勝てない」。脳裏に刻まれる10年前の記憶【コラム】

日本代表は25日、韓国代表との国際親善試合に臨み、3-0で勝利している。攻守に躍動した日本代表快勝の陰には、日本代表でキャプテンを務める吉田麻也の献身があった。吉田の脳裏には、10年前の日韓戦の記憶が焼き付いている。(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子 photo by Getty Images

韓国代表を圧倒した日本代表

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【写真:Getty Images】

 コロナ禍に加え、日韓関係悪化で試合開催の是非も問われていた25日の日韓戦。仮に敗れていたら、批判の声が高まり、森保一監督の解任論が再燃しかねなかった。

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 しかしながら、今回の日本代表にそういう心配は無用だった。序盤からゲームを支配し、高い強度と連動性、攻守の切り替えの速さで相手を凌駕する。

 前半は韓国をシュート1本に抑え込み、初キャップの山根視来とドイツで活躍中の鎌田大地のゴールで2点を先行。後半は代表デビューの江坂任や小川諒也、川辺駿ら新顔も増えたため、やや押し込まれる時間帯もあったが、遠藤航のダメ押し弾も飛び出し、終わってみれば3-0。10年前の札幌ドームで香川真司の2発と本田圭佑のゴールで勝ち切った日韓戦の再現を果たしてみせた。

「選手たちがアグレッシブに、勇敢に、球際のところで戦うこと、いい守備からいい攻撃につなげていこうとトライし、チャレンジしてくれたことがいい攻撃につながった」。森保一監督も前向きにコメントしたが、2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア予選が始まった2019年の秋頃はここまで強度と連動性の高いゲームは見られなかった。

 吉田麻也や大迫勇也ら主力が不在だったこともあるが、コロナ前の国内最後の代表戦だった2019年11月のベネズエラ戦では、攻守両面が噛み合わず失点を繰り返した。今回も酒井宏樹らメンバーから外れていたが、チーム全体が同じ方向を見て、しっかりと戦えた。

 2018年ロシアワールドカップのベルギー戦分析でも、日本は時間の経過とともにデュエル勝利数が減り、リアクションの守備が増えるという課題が浮き彫りにされた。2020年に欧州で4試合を行い、メキシコのようなワールドカップ決勝トーナメント常連国とも対峙した。そこで現実を突きつけられたことも奏功したのだろう。

 課題を克服するためにも、90分間戦い抜くフィジカルや強度の維持が強く求められる。選手個々が弱点を意識しながら粘り強く戦ったことも、快勝の一因と見ていい。

「Jリーグの1.5倍の力で行かないとダメ」

 もう1つ大きかったのが、10年前の唯一の生き証人・吉田麻也の存在だ。札幌で香川や本田がゴールを重ね、宿敵を圧倒した歴史的一戦を最終ラインから支えた記憶は今も鮮明だという。

「あの時は僕も若くて地に足がついていなかった。真司に勝たせてもらった試合だった」と本人は述懐する。先人たちの闘争心と負けじ魂は脳裏に深く刻み込まれていた。

「韓国には足が折れても、体が壊れてもぶつかっていかなければいけない。そういう表現をよくしてました。僕より下の世代にそれを伝えていかないといけない」と強い決意を胸に秘め、ピッチに立ったのだ。

 新顔の多い今回は、そのメンタリティと激しさを準備段階から伝えていかなければいけない。コロナ禍でピッチ以外では選手同士の会話ができない中、意思疎通の機会は限られたが、それでもキャプテンは厳しい要求を繰り返した。

「この活動の一発目に麻也君から『Jリーグでいつも行っている1.5倍くらいの力で行かないとダメだ』と言われた」と殊勲の先制弾を挙げた山根は証言する。吉田が言いたかったのは「世界基準で戦わないと韓国には勝てない」ということだったのだろう。それを最初に植え付けなければ、いい入りができなくなる恐れがある。100試合以上の代表戦に出場してきたベテランは、自身の経験を踏まえつつ、あえて頭からインパクトの大きい声掛けをしたのだ。

 その指示は、佐々木翔やポルトガル移籍2カ月の守田英正、後半から出場した江坂らにも響いた。ベネズエラ戦で惨敗した頃の佐々木はポッカリ穴を作るなど甘さが垣間見えたが、今回は最終ラインの一角として的確な役割を果たした。守田も遠藤といい距離感でプレーしつつ、攻守両面で存在感を披露。柴崎岳不在を全く感じさせなかった。

主将の一挙手一投足が快勝の遠因に

 鎌田に代わってトップ下に入った江坂もJリーグ以上の献身的な守備と飛び出しを見せた。彼にしてみれば、かつての同僚・伊東純也が山根の背後まで下がってスペースを埋めたり、サイドを抜け出しかけたホン・チョルを猛スピードで止めたりするのを目の当たりにして「もっと自分もやらなければいけない」と感じたことだろう。

 その伊東も4年前のEAFF E-1選手権で韓国に粉砕され、苦い経験をしている。だからこそ、吉田の言わんとすることをピッチで表現すべく、普段以上のパワーで戦ったはずだ。

 吉田のパートナー・冨安健洋にしても、後半23分にイ・ドンジュンの手が顔に当たって出血するアクシデントに見舞われたが、何事もなかったかのように止血してピッチに戻って冷静に戦い続けた。終盤の韓国の猛攻をしのげたのも、両センターバックがしっかりとゴール前で壁になっていたから。その安定感は最後までチームの支えになっていた。東京五輪世代でただ1人、今回のA代表活動に参加した冨安は、日韓戦の貴重な経験を若い世代に伝えていってくれるだろう。

 今回の日韓戦は歴史的証人である吉田の発言や一挙手一投足が直接的、あるいは間接的にチームに好影響をもたらした格好だ。吉田自身もそれだけの結果を残さなければならない背景があった。日韓戦出場条件である3日前の入国を可能にするため、日本サッカー協会がチャーター便を用意。深夜の入国審査も特別対応してもらったからだ。

「これだけしてもらって結果を出さなきゃ男じゃない」と前日にも自身を奮い立たせていたが、凄まじい気迫と責任感は確実に伝わった。こういったメンタリティでつねに国際試合にぶつかっていければ、日本代表は着実に進化できる。最終予選突破はもちろんのこと、カタールW杯での8強超えにつながっていく。強度・連携・メンタル含め、この試合を1つのスタンダードにしてほしいものだ。

(取材・文:元川悦子)

【了】

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