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Jリーグ 2年前

大迫勇也が見せる2つの顔。「ずっと痛めている」、満身創痍の男が俯瞰するヴィッセル神戸の今【この男、Jリーグにあり/前編】

シリーズ:この男、Jリーグにあり text by 藤江直人 photo by Getty Images

ヴィッセル神戸を救う一撃



 清水ゴール前の混戦からFW武藤嘉紀がシュートを放つも、DF原輝綺にブロックされた。しかし、こぼれ球をDF片山瑛一もクリアし損ねてしまう。ふわりと浮いたボールを誰よりも早く間合いに収めたのは、66分から途中出場していた大迫だった。

 場所はペナルティーエリア内の左側。しかし、大迫は清水ゴールへ完全に背を向けた体勢だった。だからこそ、その場に居合わせた敵味方の全員が虚を突かれた。

 体を時計回りに反転させながら、ボールの落ち際に合わせて左足を鋭く振り抜く。低く抑えられた強烈な弾道が、反対側の右側のサイドネットに突き刺さる。代表で何度も共闘してきた清水の守護神、権田修一も反応できない完璧な一撃だった。

 新型コロナウイルス禍でJリーグが設けてきたガイドラインで、チャントやブーイングなど、集団で継続的かつ意図的に声を出す応援は禁止されている。一方で瞬間的に飛び出してしまう、感嘆の類が込められた声は許容の範囲内にある。

 自然に出てしまうものだからとJリーグから認められた声のなかでも最大のものを、大迫の一撃はホームのノエビアスタジアム神戸に響かせたといっていい。

 試合前の時点で、17位の清水と最下位18位の神戸との勝ち点差が3ポイント。得失点差はともにマイナス9。自動的に勝者が17位に、敗者が最下位となる裏天王山を制した神戸が、今シーズン初の連勝で最下位を抜け出したのだから無理もない。

「いやぁ、同点も覚悟していたんですけど、やっぱりサコ(大迫)はすごいですね。素晴らしいゴールだったと思います」

 今シーズンだけで4人目の指揮官で、就任から2戦目の吉田孝行監督が試合後の第一声で、本来ならば「引き分け」と言うべき箇所を興奮のあまり間違えた。それでも勝利の価値を問われた大迫本人はどこまでも冷静に、チーム全体を俯瞰していた。

「連勝できたことがすべてですし、本当に苦しかったですけど、こういう戦いを最後にものにできるように、チームとして戦えるようにするのが一番だと思っています」

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