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Jリーグ 11か月前

J3が映し出す「世界との差を縮めるために必要なこと」。Jリーグ30周年の現在地【英国人の視点】

シリーズ:英国人の視点 text by ショーン・キャロル photo by Getty Images

「それがフットボールの美しいところ」



 冷たい雨が降り続く中、1万2458人のファンがつめかけた長野Uスタジアムは熱気に包まれた。コンパクトな会場を終始沸かせ、選手たちはこの機会にふさわしい気迫のこもった試合を繰り広げた。

 オレンジ色のニットを着ていた長野のシュタルフ悠紀リヒャルト監督は、試合中ずっと怒り続け、レフェリーや第4審判の判定に何度か文句をつけるなど、ピッチ脇で火種をまき散らしていた。一方で山雅ベンチも同じように激高し、セカンドボールをピッチに蹴りこんで素早いリスタートを阻止するといった場面もあった。

 このような些細な動きを試合中に見たくないと言われることもあるが、実際はみんな楽しんでいたりもする。菊井悠介は山雅の左サイドで躍動し、常に相手に問題を起こそうとしていたが、パルセイロは常に相手よりもまとまりのあるユニットを作り出していた。そして、32分には秋山拓也のヘディングで先制した。

 宮阪政樹はJ3のファン・ロマン・リケルメのように淡々とボールを持ち、決して慌てることなく古巣に対して持ち味を発揮していた。長野はリードを奪ってからも主導権を譲る様子はなく、残り11分のところで山本大貴が古巣相手に追加点を決めたのも驚きではなかった。

 残り5分となったところで、シュタルフ監督はホームのファンに必死に呼びかけ、チームが宿敵からリーグ戦初勝利を挙げるのを後押しした。アディショナルタイムにキム・ミンホのミスから小松蓮にゴールを許したが、長野は勝ち点3に値する結果を残した。

「今日僕らが見たのは、信州の人々の生活の一部にフットボールがある姿だと思う」とシュタルフ監督は試合後に語った。「この試合に向けて、本当に街の盛り上がりやメディアの皆様が取り上げてくれて、多くの人たち、普段スタジアムに来ないような人たちも来ていました」

「自分の街を誇りに思い、ライバルの町に負けたくないという気持ちがあった。普通、それを道の上でやったら喧嘩や戦争に発展することが多いのですが、それがフットボールでは許されていると思いますし、それがフットボールの美しいところ」

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