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Jリーグ 1か月前

「サッカーの神様は見ている」ヴィッセル神戸、35歳・新井章太の初先発は努力の結晶。セカンドGKの覚悟と在り方【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

セカンドキーパーとしての在り方



 ゴールキーパーが背負う宿命は誰よりも理解している。フィールドプレイヤーと異なり、先発できるのは1人だけ。戦術的あるいは試合の流れを変える目的で途中投入されるケースは皆無。リザーブが途中から投入されるのは、先発したキーパーが負傷した場合か、退場処分を受けた場合に限られる。

 さらにレギュラーの守護神とリザーブの間には目には見えない、なかなか埋められない壁が存在する。監督以下の首脳陣の間で一度定められた序列を、シーズン中に覆す作業は決して容易ではない。それでもリザーブのキーパーたちは、不断の努力を怠ることもまた絶対に許されない。

 いつ訪れるかわからない出場機会に備えて心技体を磨き上げ、コンディションを常に完璧に整えておかなければならない。チームが直面した緊急事態で出番を命じられたときに、最後の砦へと昇華して、自らの背後に広がる横幅7.32m、高さ2.44mのゴールマウスを守れなければ信頼を失う。

 自身のキャリアを振り返れば、国士舘大から2011シーズンに加入した当時J2の東京ヴェルディでは、土肥洋一と柴崎貴広の壁に阻まれ続け、公式戦出場が0のまま2年間で退団した。

 トライアウトをへて2013シーズンに加入した川崎Fでも、西部洋平や杉山力裕、そしてチョン・ソンリョンの後塵を拝し続けた。それでも、新井は自らにこんな言葉を言い聞かせ続けた。

「ずっとセカンドキーパーで、試合に出られない時期も長かったけど、毎日毎日、本当にサッカーだけを考えて、うまくなるという気持ちを常に持ち続けていれば、必ずサッカーの神様は見てくれている」

 迎えた2019シーズンのYBCルヴァンカップ決勝。延長戦を終えて川崎F、北海道コンサドーレ札幌ともに3ゴールずつを奪った死闘は運命のPK戦へ突入し、5本目と6本目を立て続けに止めた新井の活躍もあって川崎Fが大会初優勝を飾った。そして、新井は決勝のMVPに選出された。

 新井が積み重ねてきた努力を、誰よりも知る大黒柱の中村憲剛はこんな言葉を残している。

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