長谷部監督が語気を強めた瞬間「チャンスには出ていけ!」
「監督は、言葉を仕事で使う立場。受け取る側にどう伝わるかを常に考えている。敬語か丁寧語か分かりませんが、自分の中では丁寧に話しているつもりです」
洋の東西を問わず、指揮官が指示を出すときの口調は強くなる。もちろん、それ自体が悪だという話ではない。ただ、伝わり方に気を配る長谷部監督は、選手にも丁寧な言葉で語り掛ける。
選手の個性を発揮させるには、まず心が動かなければならない。言葉はそのスイッチであり、いいプレーを引き出す起爆剤でもある。強く怒鳴ることも、感情で鼓舞することも選択肢としてあるが、長谷部監督は“伝わること”に重点を置く。モチベーションの外的要因として、指導者の影響力を自覚しているのだ。
「モチベーションは自分の中から湧き出るもの。でも、それは外的要因でどうにでもなる。外的要因の一つが私なので」
準々決勝のアル・サッド戦。後半が終わり、延長戦開始を待つ間に組まれた円陣で、長谷部監督は語気を強めた。
「しっかり戻れよ。いいとき、チャンスには出ていけ!」
強い口調はこの日が初めてだったわけではない。ただ、いつもより強い口調が、体力の限界を迎えていた選手たちを奮い立たせた。「試合前とかは結構ああいう感じで盛り上げてくれる。それのマックスという感じでした」と脇坂泰斗は話す。
相手のパスをカットした瀬川祐輔から山田新へとパスがつながり、脇坂が執念でゴールにねじ込んだ。「チャンスには出ていけ!」という言葉をキャプテンが体現して決勝点をもぎ取ったのだった。
準決勝では、先発に抜擢された大関友翔と神田奏真が躍動した。20歳の大関は今季の公式戦での先発がわずか1試合、神田に至っては今季初先発だった。
傍から見れば博打にも見えるこの起用だが、長谷部監督には思惑があった。