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日本代表 9年前

無念の準優勝も、宮間あやが涙をこらえた理由。主将が背負う女子サッカーの未来

text by 藤江直人 photo by Getty Images

世界一の夢。「一回だけでいいんですか」

 3失点に絡んだ岩清水は澤との交代でピッチを後にした前半33分から、ベンチで号泣し続けた。試合後には責任を背負うかのようにGK海堀あゆみ(INAC神戸レオネッサ)が、流れを変えられなかったFW岩渕真奈(バイエルン・ミュンヘン)が泣き崩れた。

 ロンドン五輪以降の3年間の集大成が問われる大一番で喫した大敗。誰もがショックを受けたはずだが、宮間は涙をこらえた。胸を張って銀メダルを受け取った。戦いはまだ続いていく。キャプテンとしての責任感が、号泣することを許さなかった。

 宮間は常に危機感を抱いてきた。2010年1月に行われたなでしこジャパンの南米チリ遠征。団長を務めた日本サッカー協会の野田朱美・女子強化担当(現女子委員長)から、こんな話を聞いたことがある。

 おりしも出発前に行われた日本協会理事会で、野田氏が約1年間をかけて反対者を説得してきた「なでしこジャパン海外強化指定選手制度」が承認され、同4月から適用が開始されることが決まっていた。

 短期間でなでしこジャパンを強化することを目的として、海外クラブに所属する代表クラスの選手に1日につき1万円、1シーズンで約250万円を滞在費として支給する制度は、年俸が300万円ほどで通訳もつかない海外組の経済的な苦境を劇的に改善する。

 たとえば大儀見やFW安藤梢(フランクフルト)たちは滞在費を語学学校代に充てて、チームメイトたちとのコミュニケーション能力を向上させることで飛躍につなげた。

 日本協会内で吹き荒れた逆風を鎮め、世界でも例を見ない制度をスタートさせることへの喜びに浸っていたからか。野田氏はチリ遠征中に、「とりあえず世界一になりたいよね」と宮間へ思いの丈を伝えた。宮間からは意外な言葉が返ってきた。

「一回だけでいいんですか」

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