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Jリーグ 7年前

松本山雅・飯田真輝が辿った成長の軌跡。“都落ち”からの飛躍。PO敗退も物語は第二章へ【The Turning Point】

シリーズ:The Turning Point text by 海江田哲朗 photo by Getty Images

プレーオフは敗退も、幸せな出会いの物語は続く

 11月27日、プレーオフ準決勝、相手はリーグ戦6位のファジアーノ岡山である。23分、押谷祐樹のゴールで岡山が先制し、74分、松本山雅はセットプレーからパウリーニョのヘッドで同点に追いつく。

 形勢有利は松本山雅。このままゲームを閉じれば、プレーオフ決勝に駒を進められる。ところが終わり間際、ゲームは転調した。アディショナルタイム、力を振り絞る岡山がぐいぐい押し込んでくる。松本山雅は反町監督の指示でラインを上げた。相手の攻撃を前ではね返し、ボックス付近で起こりかねないアクシデントを未然に防ごうとした。

 90+2分だった。矢島慎也が縦に蹴り、豊川雄太が頭で落とす。飯田は中央を割って入ってくる赤嶺真吾を見ていたが、一瞬ボールの軌道につられ左を向いた。右、左、右と細かく振られ、位置取りが中途半端になった。赤嶺に通る決定的なラストパスを見送るしかなかった。

 赤嶺のシュートがゴールに吸い込まれ、飯田はがくっと身体を沈ませながら顔を振って副審を見た。オフサイドであろうはずがないのだが、上がっている旗を目で探した。ディフェンダーの習慣なのだろう。

 そうして松本山雅は、リーグ戦で勝点19もの差をつけた岡山の前に敗れ去った。

「当面は独り身ですよ。いまはすべてをサッカーに注ぎ込みたい。趣味だった釣りもほとんど行ってないですね。試合のあとは家に帰ってから、必ず録画したものを見ます」

 そう話していた飯田は、この試合も同じようにしたのだろうか。私の頭には、心身ともズタズタにされながら、それでもテレビの前に座る飯田の大きな背中が浮かぶ。

 プレーオフ敗退を最後に、地域リーグの頃から松本山雅を支えてきた鐡戸裕史の引退が発表された。来季、飯田はクラブ在籍最長の8年目を迎える。

 ターミガンズの右肩上がりの時代は終わりを告げた。だが、飯田と松本山雅の幸せな出会いの物語には、まだ続きがある。

(取材・文:海江田哲朗)

【了】

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