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Jリーグ 7年前

Jリーグクラブライセンス事務局の暴挙。不可解な人事介入を追う【前編】

『フットボール批評』では2012年のFC岐阜をめぐるJリーグクラブライセンス事務局の暴挙を2号にわたって告発してきた。その反響は大きく、また日本サッカーのために多大な貢献を果たした人物の名誉回復のためにもより多くの人に知っていただきたく、今回特別に『フットボール批評Issue12』(2016年7月6日発売号)に掲載された第一弾を一部編集して全文公開する。(取材・文:木村元彦)

text by 木村元彦

黒塗りの文書が示す事務局による人事介入

FC岐阜に対するFIBヒアリング資料
【資料1】【資料2】。上が黒塗りにされている【資料1】と下が独自に入手した黒塗りにされていない【資料2】。【写真:フットボール批評編集部】

 紙芝居のような形で進行しよう。まず、【資料1】を見ていただきたい。これは4月に岐阜県庁に情報公開請求して出てきたものである。請求の内容は「1)2012年度における岐阜県商工労働部および清流の国推進部地域スポーツ課と公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)(同法人担当者含む)との間で受信、送信された文書、ファックス、2)2012年に実施されたFC岐阜に関する意見交換会の会議資料および議事録」である。

 商工労働部というのは当時、岐阜県庁でFC岐阜を担当していた職員の所属していたセクションである。この職員が県知事にあててFC岐阜についてのレクチャーを上げていた。

 2012年のFC岐阜と言えば、シーズン途中であるにもかかわらず今西和男社長と服部順一GMが辞任を申し出るという大きな出来事があった年である。辞任に至る経緯については二人とも一切語っておらず、一体、どういうプロセスがあったのか、多くの人々は自ら辞表を出したと信じていた。かくいう私もそうであった。真実は何であったのか、調査報道を進めるうちにこの文書に突き当たった。

 文書は公益社団法人日本プロサッカーリーグの角印(すなわち組織として認めたものとして)が押され大河正明Jリーグクラブライセンス事務局ライセンスマネージャーの名前で発信されている。タイトルは「FC岐阜に対するクラブライセンス交付第一審機関(FIB)ヒアリングの結論の件」と銘打たれている。書面にはヒアリングの日時と出席者が記されたあとに、いきなり結論とあり、ライセンス交付は極めて厳しいと断定している。

 ここでまず、賢明な読者は「えっ」と違和感を覚えるであろう。ライセンス交付を審査するFIBは情実などを避けるためにJリーグから完全に独立した第三者の監査機関のはずである。「FIBの独立性を担保するため、FIB構成員はJリーグ理事・監事、日本サッカー協会(JFA)理事・監事・評議員、ならびにJリーグまたはJFAの専門委員との兼務が認められておりません」(2015年9月19日Jリーグプレスリリース)と再三再四、その独自性をうたい、Jリーグチェアマンですら、アンタッチャブルな領域とされている。

 にもかかわらず、交付が難しいという決定をFIBの名前ではなく、Jリーグの大河が審査の日のうちに伝えて来ている(ライセンス事務局とFIBは一体化しているのか?)。しかも、発信先がFC岐阜のみならず岐阜県庁と岐阜市役所である(なぜ、Jリーグは民間企業であるクラブについての審査を行政に言いつけるのか?)。

 さらに異様なのがべったりとスミで黒く塗られた箇所である。

 出席者の今西と服部の名前はむき出しで読めるのにFIBの人物名が全部消されている。本来であれば審査する人間、裁く人間の名前こそが、明示されなくてはいけない。あらゆる裁判でも裁判官の名前は開示される。書類を出してくれた地域スポーツの職員に、「黒塗りになっている部分があるが非公開にされている理由は何か?」と問うと、「それは法人にとって不利益になることが書かれているからです」とのことだった。

 実はこの情報公開は請求して決定期間の2週間を過ぎても開示されず、「延長する」という通知書が来ていた。電話でなぜ遅れるのかを聞くと、「出して良い書類かどうかの判断に時間を要している」という説明であった。この部分がその判断に時間がかった箇所であるのは一目瞭然であった。結局、関係各所に問い合わせ、書類は出すが、法人にとって不都合な部分は黒塗りにするという決定が成されたのだ。

 念のため職員に確認をした。「この箇所の情報を出されたらまずい法人とはFC岐阜ですか?それともJリーグですか?」「Jリーグです」。Jリーグにとって表に出されたら不利益な情報。それは何か?

 動き回って黒塗りでない文書を入手した。それが【資料2】である。注目してもらいたいのが、結論の(2)である「ヒアリングに出席した取締役2名が他に後任がいないとの理由で消極的に経営に関わっている状況である」と決め付け、「後任の有無と来期以降の経営体制を具体的に説明した資料を提出すること」を県と市に要求している。ヒアリングに出席した取締役とは言うまでもなく今西と服部である。

 FIBは経営に関する数字の監査であるはずなのに、消極的という極めて主観による曖昧な評価を与え、後任と来期以降の経営体制に言及している。黒塗りで隠していた箇所は、県庁に対してライセンス交付と引き換えに今西、服部をクビにしろというJリーグによる紛れも無い人事介入であった(なるほどこれは隠すはずである)。

 事実、Jリーグからの結論とあってこの文書を見た岐阜の古田肇知事は、ライセンスが不交付になることで政治課題になることを恐れたという。この年は知事自らが聖火ランナーとして走る岐阜国体があった。8月23日、即座に今西を県庁に呼んで「社長を退いてもらう」と通達し、解任に及んだというわけである。

 今西がサンフレッチェ広島や日本協会の強化副委員長時代にどれだけの功績を残したかは、サッカーファンならば誰もが知っている。もちろん経営者としてその能力に問題があれば正当な形で裁かれるべきである。

 しかし、今西はこの年の10月には資金ショートの1億5000万が集る確約を得て書類も提出していたにもかかわらず、このような形でクラブライセンス事務局によって第一次正式審査すら受けさせてもらえずに解任されたのだ。

 調査していったら、その暴挙はさらに続いていた。

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