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Jリーグ 6年前

挫折の大きさが未来へのエネルギーに。鈴木啓太、燃え尽きて取り戻したサッカーへの意欲【谷間の世代と呼ばれて】

シリーズ:「谷間の世代」と呼ばれて text by 元川悦子 photo by Etsuko Motokawa, Getty Images

「水を運ぶ人」としてオシム監督が重用

オシム監督が日本代表を率いた際には中心選手としてプレーした
オシム監督が日本代表を率いた際には中心選手としてプレーした【写真:Getty Images】

 歌詞を見た仲間たちは闘志を奮い立たせ、那須大亮(神戸)と大久保嘉人(川崎)の2発が決まって3-0と勝利。ついにアテネへの道をこじ開けた。UAEラウンドで外された大久保と阿部勇樹(浦和)の奮闘も大いに光った。チームをその方向へと導いたキャプテンの功績を忘れてはならないだろう。

 ところが、その男がアテネ五輪本大会メンバー18人から落選するというまさかの出来事が起きた。山本監督はともに成功体験をしてきた黄金世代の小野や高原、曽ヶ端隼(鹿島)へ絶大な信頼を寄せていて、オーバーエージ起用によって鈴木啓太が押し出される格好になったのだ。

「直前の沖縄キャンプから雰囲気が違っていて、僕自身もずっとモヤモヤがありました。発表当日はチュニジアとの親善試合の後でレッズに戻っていて、他の候補メンバーとパスタを食べていたんだけど、パスタが喉を通らなかった(苦笑)。自分の中に絶対的自信がない証拠だったと思います。

 落選を告げられたのはマッサージルーム。頭が真っ白になってクラブハウスを出たら、ある記者が『お前には行かせてやりたかったよ』と号泣していた。言葉が見つからなかったですね。

 家に戻ってからも車から降りられず、そこから実家に電話をかけて、母に『落ちちゃった』と言ったら、『大丈夫だよ。一生懸命やったんだから』と励ましてくれた。でも泣いてるのが分かるんですよね。ホントに辛かったし、応援してくれるひとを悲しませちゃいけないなと心底、思いました」

「力をつけてA代表に入ろう」と誓った鈴木啓太は2006年ドイツワールドカップの後、イビチャ・オシム監督が就任すると、ボランチの大黒柱に据えられた。「水を運ぶ人が必要だ」という名将の発言によって彼の存在価値が再認識される。

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