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中村俊輔のキックが楽しみな理由。一流が持つ独自の『感性』…育成指導者よ、教えすぎるな【宮澤ミシェルの独り言】

シリーズ:宮澤ミシェルの独り言 text by 青木務 photo by Junichi Ebisawa , Getty Images

試合結果よりも気になる中村俊輔のキック

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天才レフティー・中村俊輔のキックを、宮澤氏は楽しみにしている【写真:Getty Images】

 指導者としては、いいものだと思ったら子どもたちに教えたくなってしまう。その気持ちはとてもよくわかるけど、そこをぐっと我慢して、感性を育てるにはどうすればいいんだという視点を持っていないといけない。

 感性という点では、インタビューにもキャパシティがないように思う。一緒の受け答えで。それは、家にそういう環境がないからというのもあるんじゃないかな。例えば子どもの頃、映画を観た後の感想で「楽しかった」というのは僕の家では許されなかった。「何が楽しかったんだ?」と聞かれてしまう。大人のストーリーだったし、内容なんか全然覚えていない。どうしようって思って、「あの車が好きだ」みたいな返しをするわけ。すると、「そうか。黄色い方か赤い方か?」となる。そうやって話は膨らんでいくんだ。

 今の選手には、「スタジアムに来てください」だけじゃなくて「左足で魔球を蹴れるんで、観に来てください」とか、何か一つ言えるとこっちも興味が沸くよね。サッカーって、人間性でプレーするものだから。

(中村)俊輔みたいにキックにこだわって、あそこまでこだわると辿り着くんだよ。あのレベルに。俊輔を見ているとやっぱり楽しいよね。どんなボール蹴るんだろうってワクワクするし、人間性が滲み出ているなと思うよ。

 彼は(横浜F・)マリノスのユースに上がれなくて桐光学園高校に行ったけど、授業が終わったらグラウンドで遅くまで練習できる。その環境が良かったのかもしれない。俊輔にとってすごく嬉しいことだったと思うし、彼の感性はあそこで磨かれたんじゃないかな。今39歳だけど、全く関係ないね。僕は俊輔のキックを見たいし、試合の結果より俊輔が気になるというか。俊輔のキックだけを編集した映像が見たいもん。

 プロのゲームを観に行くってそういうことだと思う。キーパーだったらどんなセービングをしたのかが見たいよ。そういう選手にみんななりたいはずなのに、同じ感覚になってしまったらもったいない。

 指導者が色々なことを教えるのは大事だし、子どもたちもそこから吸収しないといけない。その上で自由さだったり、自分で考えこだわりを持って実践し続けてもらいたいね。

▽語り手:宮澤ミシェル
1963年7月14日、千葉県出身。Jリーグ黎明期をプレーヤーとして戦い、94年には日本代表に選出された経験を持つ。現役引退後は解説者の道を歩み、日本が出場した過去5大会のワールドカップを現地で解説している。様々なメディアで活躍。出演番組にはNHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』、WOWOW『スペインサッカー リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』などがある。

【了】

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